第9章

第1話 年が明けて、今年の抱負は。


 ――年が明けて、一月一日、元旦。

 私と真姫はふたりで近所の神社に初詣に来ていた。


 お賽銭箱にお金を入れ、手を合わせながら、ちらりと横目で真姫を見る。

 その顔は真剣そのもので、小声でお願い事なのか何なのかわからない事をひたすら唱えていた。

 まるで念仏みたいでちょっと怖い。


 お賽銭だって、千円札を入れていた。

 いや、最初、五千円札を投げ込もうとしていたので、必死になって止めて千円札にランクダウンさせたのだ。

「ちょっと大枚はたき過ぎじゃないかなぁ!」

「止めんじゃないわよ!もうこうなったら神頼みだって必要なのよ!私がどんな気持ちで年越したと思ってんのよ!」


 一体なんなのさ。その藁をも掴む勢い。

 命かなにかかかってるの?


 金額には個人差があるだろうけど、私の中でお賽銭の通常の相場は五円(御縁がありますようにの意味で)だ。

 あまりの大盤振る舞いに、一体何を望んでいるのだろうと気になったけれど、聞くのが正直怖い。

 今ならおみくじだって大吉が出るまで何度でも引きそうな勢いだ。ガチャじゃないんだから。


 大体、本来ならこのゲームの主人公であるヒロインは、誰かに依存することも、誰かに執着するなんてこともない。

 来る者拒まず、去る者追わず。

 でも、ちょっと距離の詰め方が早かったり、ボディタッチがあったり、そうした思わせぶりなことはする。


 それがこの乙女ゲームの主人公の性格のはずだ。

 傍から見ると酷いキャラ設定だけれども、大体の乙女ゲームなんてそんなもんだから仕方が無い。

 だって男性キャラを攻略しなきゃいけないんだもん。

 そんな乙女ゲームの主人公であるはずの真姫が、ここまでにして叶えたい事って、何なのだろうか。


 世界征服か?

 この世界は既に君の手中にあると言っても過言では無いのだが。

 思い通りにいかない事なんてあるのか?


 とはいえ私だって、今年こそはやり遂げるつもりなのだ。

『真姫と攻略対象との関係の進展』

 それが私の今年の抱負で、達成すべき目標だ。


 どうしたら彼女をその気にさせられるのか、私だってこの冬休み中、必死になって考えたのだ。

 私が加賀美君達、攻略対象にアプローチする『当て馬作戦』も考えたけど、何だか駄目そうな気がしている。

 加賀美君だけじゃなくて、他のどの攻略対象に対しても一通り私が当て馬になる想像をしてみたけれど、どうにもうまくいくイメージが湧かなかった。


 寧ろ、攻略対象にすり寄る私を捕まえて、『私とあいつ、どっちが大事なのよ⁉』とブチギレられそうな気もしている。

 そしてその想像は多分、正解だ。

 女心って難しい。

 ゲームの中の主人公って、こんなに幼馴染ラブだったっけ、と頭を抱える。


 むしろもう私は何もしない方が、真姫は気持ちが向くまま赴くままに、好きになった相手を自力で落としに行くのではという気もしている。

 なんかこの子、ゲームと違って肉食っぽいし。たくましいし。


「よしっ、さ、茉莉、おみくじ買いに行くわよ。大吉が出るまで。あとお守りも」

「なんか、き、気合入ってませんか……」

「当然でしょ。ほら、周りの参拝客の邪魔になるから、おいで。とにかく茉莉は私から離れないで」


 ぐい、と手を引っ張られて人混みを抜ける。

 手は繋がれたまま、おみくじが設置されている所まで、引き摺られるように連れていかれた。

 私を引っ張りずんずん歩いていていく真姫の後ろ姿を見ながら、今年もこうして私といるつもりなのかなぁ、と心配になる。


 それは大分嬉しくもあり、ちょっと困ることでもある。


 私といたって状況は何も変わらないのだ。

 今年も今年で、ゲームの展開通りにいかないかもしれないと思うと、前途多難な幕開けだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る