第3話 親友からのとある提案


 楽しかったクラス会解散後の帰り道。


 ――ちょっと部屋寄ってかない?

 そう誘ってきたのは真姫だった。


 現在の時刻はまだ18時。

 元々、今日はクラス会で遅くなるかもとは親に伝えていたので、時間的にはまだ問題はない。

 しかも真姫の家なら自宅からも近いし親としてもあまり文句もないだろう。

「またご迷惑をお掛けしなかった?」なんてお小言は言われると思うけど。


「こんばんはー」

「あら、いらっしゃい茉莉ちゃん」

 お家に上がらせてもらうと、真姫のお母さんが笑顔で迎えてくれた。

 真姫のお父さんはクリスマス直前の休日だから、街の取り締まりに駆り出されていて今夜は遅くなるらしい。

 警察官って大変だ。


 ゆっくりしていってね、との声を背に真姫の部屋のドアをくぐる。

 もう何度も来てお泊りだって数えきれないほどしている幼馴染の部屋だ。

 勝手知ったるなんとやらで、傍に置いてあるクッションを自分で取りそのまま座る。


 さて、問題はここに呼ばれた理由だ。

 もしかして何かの相談か、それともただクラス会の高揚感でそのまま終わりたくなかったとか。

 でもそれならファミレスにでもどこにでも行けばいいだけで、自宅にまで呼ばなくてもいいはずだ。

 となるとやっぱり何らかの相談事か内緒話があると想定するのが必然なわけで――。


 そんなことを考えていたから、「はい」と目の前にラッピングされた袋が差し出された時、反応が遅れてしまった。

 目の前に差し出された袋を前に、暫くの間固まってしまう。

「……え、何、その無反応」

 少し戸惑ったように真姫が私の顔を覗き込む。

 うん、可愛い。

 ――じゃなくて。


「え? プレゼント?」

「そ、プレゼント」

「私達って、毎年クリスマスプレゼント贈りあってたっけ? 誕生日とかバレンタインなら毎年しているけど」

「いや、違うけど…。今年はそうしたかったのよ」


 いいから貰いなさいよ、と私の手の中にぐいぐいと可愛いラッピングの袋を押し付ける真姫の顔は、少し赤い。

 こういう所がツンデレなんだよなぁ、と思いながら、今のところ男性陣が彼女のこういう姿を未だ認識できていないことに驚きを覚える。

 今のところ、私がこのツンデレを独り占めしているらしい。

 ちょっと優越感だ。

 それじゃ駄目なんだけど。


「え、開けていい?」

「いいわよ」

 丁寧にラッピングされたその紐を、あっさり解くのが惜しくて、私も丁寧にゆっくりとリボンを外し開封する。

 中から出てきたのはブランド物のハンカチで、デザインも私好みのものだった。


「わぉ、お高そう……」

「第一声がそれ?」

「うそ、凄く嬉しい」

 そう答えてにっこりと微笑むと、「そう」とだけ言って真姫も嬉しそうに笑った。

 思いがけないプレゼントに、本当に嬉しくて、胸の奥から喜びがこみ上げる。

 頬の筋肉が緩々になり過ぎて戻らないかもしれないってくらいにやけてしまう。


「あ、でも私は何も用意してない……。ごめんね。近々用意するから待っててね!」

「いいわよそんなの。私がしたかっただけなんだから」

「いやいや駄目でしょ。ちゃんと真姫からの気持ちも込められているんだから、私もちゃんと返したいよ」


 そう言うと、うーん、と暫く悩んだ素振りを見せた後、真姫が提案した。

「じゃあ、物じゃなくて行動で返してほしいかも」

「行動?」

「うん。そのハンカチを毎日使う、とか」

「え、無理がない? 毎日洗濯して乾かして持ってくるって」

「うーん、そしたら」

「そしたら?」


「ほっぺにちゅーさせて」


 真姫はゆっくりと人差し指を自身の頬に当ててにこりと笑う。


「……ひめちゃん、酔ってる?」



 神様、これって何のイベント発生なんでしょうか。

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