第7章
第1話 ヒロインの本領発揮
気を抜くと忘れがちになるけれど、
この世界というのは、乙女ゲーム『桜の誓い ―君と紡ぐ私達の物語―』のことで、7人の攻略対象とヒロインである真姫の物語である。
これまでに出て来た攻略対象は3人。
爽やかイケメンで優等生の
体育会系の男前の
ふざけた奴だけど芯はある良い奴、
私はといえば、真姫の幼馴染でありサポート役の
乙女ゲームは基本、出来レースだ。
勿論、選択肢を間違えれば関係が薄くなることも十分ありえるけれど、基本的には皆、ヒロインを好きになるようにできている、はずだ(私調べ)。
だから真姫はそのままでも十分に攻略対象を惹きつける魅力がある。
というか、顔面偏差値もスタイルもその他の能力値も、基本スペックは周辺のモブより断然高い。
そのヒロインの本領が文化祭当日の今日、目の前で発揮されようとは。
「お、おい、一ノ瀬さん、めちゃくちゃ可愛くないか?」
背後でひそひそとクラスの男子達が顔を突き合わせて話している。
まるで内緒話かのように小声で交わされるその会話に耳を傾け、『その気持ち分かる』と心のなかで相槌を打つ。
「茉莉、ど、どうかな」
教室の真ん中で頬を染め、恥じらいながらフリフリのメイド服に身を包む幼馴染が目の前にいる。
眼福ものである。
「とてつもなく可愛いと思う」
ここはストレートに褒めておくに限る。
誉め言葉以外の言葉が浮かばないからだ。
これでうちのクラスのメイド喫茶の売上確保は固い。
「えへへ、ありがとう。茉莉もメイド服、似合ってるよ。可愛い」
まるで花びらがふわりと開くように微笑む真姫は本当に可愛い。
やっぱりゲームのように、駅前の制服が可愛いカフェでバイトして欲しかった。
今からでも頼めば間に合うかもしれない。
「ありがと。メイド服はいいんだけどさ。休憩挟んだら次は王子様の衣装になるからなぁ……」
そうぼやくも同情してくれる人はこのクラスには存在しない。
どうやら普段から真姫と行動を共にしているからか、その立ち回りと新入生歓迎球技大会での私が真姫を庇ったという逸話がじわじわと周囲に浸透していたらしい。
こういう逸話って忘れられやすいから、余程の思惑で噂を広めようと思わないと広まらないと思うんだけど。
そんな話をすると真姫には『さ、さぁ、私は知らないわ……』と目を逸らされた。
犯人はお前か、と思うも自分に懐いてくれている幼馴染が可愛くて仕方ないので、もう諦めた。
ただ攻略対象の皆に誤解されたらどうしよう、という心配はあるけれど。
あの子たまに『茉莉は私のものだから』としれっと加賀美君や他の人達に話していることがあるからなぁ。
誤解されないといいけど、とちょっと冷や冷やする。
どうやらあれから話を聞くに、星宿さん達もその方面で勘違いしているみたいだし。
「わ、私は茉莉の王子様姿、楽しみよ」
相変わらず真姫の様子もおかしいし。
なんでそこで更に頬を染めるんだか。
ちょっとやる気が出てきちゃったじゃないか。
何より心配なのは、この文化祭でも新しい攻略対象が出てくる予定なのだ。
今回の攻略対象は、ここで印象に残らないと今後あまり関わりが出てこない。
まぁゲームプレイ時はあんまり好きなキャラじゃなかったからそれでもいいんだけど。
真姫の今後の可能性を潰すようなことはしたくない。
今日は文化祭当日。
これまでしてきた準備の成果を出して、サポート役としてもしっかり務めよう、と意気込みを新たにしたのだった。
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