第4話 夏の終わりと夕立と


 書店を出て暫くすると、ぱらぱらと雨が降ってきた。


「どうする?」と問うと「うーん、小雨だしちょっと歩く?」と返ってきたので家路を急ぐ。雨足が緩まる気配が無かったため、なるべく屋根伝いに歩き、暫く歩いては雨宿り、歩いては雨宿り、を繰り返す。


「なんか、強くなってきてない?」

「そう…だね」


 最初は小粒だったものがやがて大粒になり、やがてはバケツをひっくり返したという表現がぴったりなくらい、どしゃ降りの大雨になった。


 これは駄目だ、とふたりの家のうち一番近い真姫の家へと走る。


 髪の先からも水滴が滴って来た頃、ようやく真姫の家が見えてきた。


 玄関に入るなり「 ちょっと待ってて」とタオルを取りに行ってくれる。それこそ彼女もびしょ濡れの状態なので、廊下には点々と水滴が落ちていた。


 どうぞ、と急いで取ってきてくれたタオルをまずは玄関で受け取り、ぎょっとする。

 本日、白いブラウス姿だった彼女の肌には、濡れたシャツがピッタリと張り付き、薄っすらと下着の色や形が見えていた。


 こんな状態で彼女を走らせていたのかと、後悔する。

「真姫、びしょ濡れだよ。私のことは気にせずシャワー浴びてきなよ」

 流石に同性であっても目のやり場に困る。ヒロイン補正なのか、この子は結構、ふくよかに育ったから。

「そうはいっても茉莉だってびしょ濡れよ?……あ、それなら、シャワー、一緒に浴びる?」

 そんな問いかけに、即座に断ろうと思うも、この状態で家にあがるのも気が引けるし、正直自分も髪や服が濡れていて気持ち悪い。


「 あー…じゃあ、そうするわ」

 そうして、何故か満面の笑みの真姫とともにシャワーを浴び、ついでに着替えもお借りさせて頂いた。


 その後、ちょっと頬を赤らめた真姫に「きょう、とまる…?」と聞かれ、「いや、やんだら帰るし、やまなくても夜遅くならないうちには親に迎えに……」と答えるうちに真姫の顔がしょんぼりとしてきたので、「やっぱ泊まろうかな……」と根負けする。


 甘やかしすぎだろうか。

 甘やかしすぎでしょうね。

 ひとりで自問自答する。


「お母さん、もうすぐ帰ると思うから伝えとくね!あ、茉莉のお母さんにも連絡しとく!」


 いやいや何で私の親にまで、と引き止めるも既に真姫はスマホ片手に部屋を出ていった後で。


 こういうのも久しぶりだしまぁいいか、と戻ってきた真姫と残りの夏休みの計画を立てることにした。それは何だか子どもの頃のお泊り会を思い出すようで、懐かしさと高揚感で私自身もこの時間を楽しんだ。


 こうして、ふたりで予定を立てたはいいものの、残りの休みのほとんどが真姫と過ごす予定で埋まってしまった。


 クラスの子達と遊ぶ予定も入れたし、加賀美君達との予定もねじ込んではみたものの、結局は真姫は私と過ごす比重が多いままに予定を消化することになった。


 こうして、攻略対象との目立つ接点を持たぬまま、例年と同じくふたりで遊びまくり、私達の夏休みは終わっていったのだった。




第4章おわり

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