第1部

第1章

第1話 さぁ、ゲーム実況のスタートだ


 この世界の桜の花は、満開のまま約2か月間ほど咲き誇る。


 卒業式も入学式も、満開の桜の花びらがひらひらと空に舞うなかで行われる。


 、とは王道乙女ゲーム『桜の誓い ―君と紡ぐ私達の物語―』のことだ。

 日本で女子高生として生活していた私は、ある日交通事故で命を落とした。

 いまでも、車通りが多い道を歩くときやクラクションの音を聞くと少し身体が強ばる。


 不慮の事故で命を失ったと思いきや、気がつくとこの世界の人間に転生していた。

 それも、主人公である一ノ瀬真姫いちのせまきの幼馴染、長瀬茉莉ながせまつりとして。


 長瀬茉莉は、ゲームの要所要所で助言を行う、一ノ瀬真姫のサポート役だ。

 ゲームの物語の中でも比較的一緒にいることが多かったように記憶している。

 6歳の頃にそれを思い出してから、私は真姫を巻き込んで色んな事に挑戦してきた。

 勉強でもスポーツでも遊びも習い事も何でもしたし、とにかくステータス値をあげることを念頭に、殆どの時間を真姫のために費やしていた。


 お陰でまだゲームがスタートしていない現在、真姫のステータス値はすでに300を超えている。

 RPGでいうと、中盤ステージのラスボスすらも余裕で倒せるレベルである。


 まぁ、あくまでも乙女ゲームだからステータスうんぬんで世界が救えるとかという話ではない。

 カンスト値自体、500とか他のゲームと比べると低めに設定されていたはずだ。

 それでも、だからこそゲーム開始時点でこの数値は異常といっていいほど高い。


 実際、この時点でステータスクリア条件がついている攻略対象出現基準は、既に全てクリアしていた。

 ……ステータスを上げ過ぎたが故の懸念もあるんだけれど。

 それは追々確認していくとしよう。


 さて、今日は高校の入学式、隣には新しい制服に身を包んだ真姫がいる。

 ふたりで校門をくぐる。

 私達がこれから通うの学び舎の名は、私立桜ケ丘学園だ。


 ゲームで何度も見た大きな校舎の光景が、現実のものとして眼前に聳え立っていた。


 ここからだ。

 いよいよゲームのスタートだ。


 ここで私は真姫を全力でサポートし、攻略対象と彼女をくっつけてハッピーエンドを迎える。

 それが私に与えられたこの世界での役割であり、存在する意味なのだから。

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