第8話 新たな決意とちいさな約束
目が覚めると、そこは病室でした。
デジャヴュ。
少し違ったのは、すぐ傍に私の手を固く握り、真っ直ぐに見つめているひめちゃんがいること。
「ひめ…ちゃん……?」
「まつりちゃん、気がついた!?ちょっと待っててね!」
キビキビとした動作でひめちゃんがナースコールを操作する。
すぐに来たお医者さんと看護師さんによって、色々と質問された。
お母さんはいま、私の着替えを取りに帰っているらしくて、病院からの連絡に、すぐにこちらに向かうとのことだった。
一通りのお医者さんとのやり取りを終えて、病室には私とひめちゃんだけが残る。
どうやら、私が倒れて二日経っているらしい。
ひめちゃんはその間、朝から面会時間が終わる夕方頃まで、ずっとここにいたらしい。
私の手を握ったまま。
そこまで聞いて、ひめちゃんに余計なトラウマを植え付けてないかが心配になったけど、「だいじょうぶだよ」と本人が言うので、信じるしかない。
ふと、そこで気づく。
あれ、加賀美君がひめちゃんにプロポーズ(仮)をしたのって、日にちとしては昨日では?
朝から夕方までずーっとここにいたってことは…?
「え、ひめちゃん、しんくんのお引越しは…?」
「それよりまつりちゃんのほうがだいじ。まつりちゃん、しんじゃうかとおもったんだよ?」
いまもひめちゃんは、私の手を握ったままだ。
「え、でもせっかくどんぐり…」
「もうだまって」
「はい」
そこから暫く、病室の外から聞こえる話し声や足音を聞いてじっとする。
何もすることがないから1分1秒が遅く感じる。
「えーと、ひめちゃん、もう手を離しても…」
「いや」
思いのほか強情だ。
普段の聞き分けのよい良い子はどこいった。
「まつりちゃん、公園で、ママたちと会えた時に気を失っちゃったんだよ」
「ん?うん、聞いたよ。あと、その時のことちょっとだけ覚えてるもん」
「――わたしとつないでいた手からも、力が抜けて」
ひめちゃんはとても静かに、私の手を見つめながら言った。
いま私の目の前にいるのは、本当に6歳の女の子なんだろうか。
「しんじゃったかと思った」
「……」
「わたしのせいで、まつりちゃんがしんじゃったかと思ったんだ。わたしのせいで、わたしのせいで、わたしの……」
「ひめちゃん…」
「だから、決めたの」
「へ?」
「わたし、もっとしっかりした人になる。つよいおとなになる。まつりちゃんを守れるくらいの」
ひめちゃんの目はマジだ。
この間まで私のことを王子様だなんて言っていた人物と同一だとは思えない。
「だから、どうしたらつよいおとなになれるのか、まつりちゃんを守れるのか、パパとママにきいてみたの」
ご両親に何聞いてんだ。
そもそも今回、私達が公園で遭難しかけたのは、私がしんくんへのプレゼント探しを提案したからだ。
下手すると「もうあの子と遊んじゃいけません」って言われるくらいのことをした。
さぁっ、と血の気が引く。
「パパとママは、いろんなことをけいけんするのがだいじだって言ってた」
「え?ひめちゃんのパパやママは、私のこと、怒ってないの?」
「何で怒るの?だって、まつりちゃんはわたしのせいでけがしたんだよ。パパが、せっぷくしてつぐないます!ってまつりちゃんのパパに言っててたいへんだったんだよ」
切腹って…、確か、公式設定では、ひめちゃんのお父さんは警察官だったよね。
恐らくひめちゃんが全部自分のせいなんだ、って大人達に説明して、それでひめちゃんパパは責任を感じて…っていう感じか。
えらいこっちゃ。
「…あの、それ、私のお父さんとお母さんはなんて……?」
「えっと…、まつりちゃんはひとりにさせるとほんとうにしんじゃうかもしれないから、わたしに一緒にいてとめてほしい、って…」
あ、うちの両親は分かってるぅ~。
でも、何故かお世話役のはずの私がお世話される側になっているけども。
「まつりちゃん、わたしがずっとそばにいるから。まつりちゃんを守るから」
「え、でも」
「まつりちゃん、習い事はじめるんだよね?水泳と算数塾と英語塾」
「そ、そんなに?」
習い事をしたい、とはいったけど、具体的には決めていなかった。
ひたすら意気込みだけ両親に伝えて、あとは後日決める、ということで、私はこのザマなので。
「みんなできめたの。もうすぐ小学生になるから、遊ぶ時間は減るけど、一緒にはいられる。あ、まつりちゃんのママが、受け身を取れた方がいいから、って柔道もだった」
わたしも一緒に習うから、というひめちゃんの言葉に顔が引き攣る。
こんなに習い事しているヒロインなんて聞いたことがない。
でもこれなら、高校入学時点でかなりステータスを上げることができるのでは。
「……わかった。一緒に頑張ろう」
それで、ステータスを上げ、高校入学とともに攻略対象をどんどん攻略するんだ。
「うん!ずっと一緒だよ!おばあちゃんになってもずーっと。約束ね」
そう言ってひめちゃんは小指を差し出す。
「う、うん」
戸惑いながら、その小指に自分の小指を絡める。
――ゆーびきーりげーんまーん……。
かくして、噛み合っているのか噛み合っていないのかどうか分からないまま、私達は指切りをした。
そうして時は過ぎ、やがてふたりは、高校生になった。
いよいよ、ゲームが開始する歳になったのだ。
(プロローグおわり)
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