第7話 責任はとります、大人だもの
――しくじった。
大人だったらかすり傷程度で済むような小高い岩場から転げ落ちただけ。
ただそれだけでも、子どもの皮膚は柔らかい。
柔らかいし、脆い。
ひめちゃんを庇って岩場に下敷きになった私は、落下した時に接した岩でスパッと左腕の二の腕部分が切れてしまっていた。
関節部分も凄く痛いので、もしかしたら折れるかヒビが入るかしているかもしれない。
またお母さんの寿命が縮む。
鈍い痛みとともに、この世界での大好きなお母さんの顔が浮かび、視界が滲んだ。
ごしごしと力任せに目を擦る。腕が痛む。
ここで私が泣いている場合じゃない。
唯一の救いは、ひめちゃんに大きな怪我がなかったことだ。
見るからにしょんぼりとして、もはや泣きべそをかいているひめちゃんに話しかける。
大泣きしないだけまだマシだ。
えらいえらい、という気持ちを込めてひめちゃんの頭を撫でる。
ズキン、と腕が痛み、思わず顔を顰める。
今日はもう、切り上げるべきだ。
「ひめちゃん、少し遠回りだけど、あっちから道に戻れそうだから歩こう」
「……っ、ま、まつりちゃ、ごめ、わたしのせいで、ごめ」
ひめちゃんは泣きながらも立ち上がる。
状況を理解して、泣いているだけじゃ駄目だと自分でも分かっているんだろう。
私が指さした先を見据える。
私は、まだ自由に動く右手を差し出して、ひめちゃんの手を握った。
ふたりで一緒に、歩き出す。
ひめちゃんのせいじゃない。
絶対にひめちゃんのせいじゃない。
こうなったのは私のせいだ。
大人になった気でいたけど、実際には私だって6歳の子どもだ。
調子に乗ってひめちゃんを危険に晒したのは私だ。
私が。
私のせいで。
私がもっと。
私が。
私が。
もっと、もっと。
ひめちゃんを守れる、強い人であったなら――。
「――私が、絶対に、ひめちゃんを、守る」
そして無事、学園に入学させて攻略対象とのハッピーエンドを見届ける。
それが、幼馴染としての、この世界で与えられた私の役割だから。
私の言葉に驚いたように、ひめちゃんが目を瞠る。
「――いたぞ!」
「真姫!茉莉ちゃん!」
「茉莉!?」
距離にしては大人の足で数分くらい、6歳の子どもからしたら途方もないような感覚の距離を歩き、ようやくハイキングコースに近づくと、前方から私達の両親が駆けてくるところだった。
保育園から帰ってきてからここに来たのだ。
陽ももう落ち始めている。
心配した親達が、ひめちゃんとひめちゃんママとの会話を手掛かりにここに辿り着いたのかもしれない。
まさか娘達がこんなところにいるとは思わなかっただろう。
何はともあれ、助かったんだ。
良かった、ひめちゃんを守れて。
安堵からか、かくん、と膝から頽れるように力が抜け、またも私は意識を手放した。
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