第6話 思ってたのとだいぶ違うかもしれない


「ひ、ひめちゃんここって……」

「大丈夫!ひめ一度ここ来たから!パパとママとおにいちゃんと!」

「うん、だから、家族で来るとか、大人の人がいないといけないやつでは……ってひめちゃん!」


 一度来たという事実が気持ちを大きくさせるのか、ひめちゃんはずんずんとハイキングコースに進んでしまう。

 そういえば乙女ゲームの主人公には勢いも大事だ。

 だって、攻略対象への唐突なスキンシップや相手をいきなりあだ名呼びしてみたり、というメンタル強めの試みも必要になってくるからだ。


 ……試しに、こっそりひめちゃんの現在のステータスを確認してみたら、体力とメンタル値が増えていた。

 最近、結構公園で一緒に遊んで褒めまくっていたからな。

 自己肯定感も高まったのかもしれない。


 でもこのままじゃ脳みそ筋肉の無鉄砲になってしまう。

 主人公の育成って難しい――って。


「ひめちゃん!そこ!コースの道から外れているよ!あぶないよ!」

 ちょっと本人から目を離してステータス値の考察をしている間に、当の本人はとんでもない不安定な足場で岩にしがみつき、どんぐりを拾い始めやがった。


 どんぐりはどこにでもあるでしょうが。

 あなたが探すのは主にお花なのよ。


「だいじょうぶだいじょうぶ。おにいちゃんはこのまえ、ここでこうやって、まあるい石をひろってたもん」

 ひめちゃんのおにいちゃんは、ひめちゃんより3つも上だ。

 動きも俊敏で、だからこそひめちゃんはちょっとおにいちゃんの真似をしてキケンなことをしたがる傾向が、たまにある。

 それも親の目があるならいいけど、子どもたちだけの時はダメだ。


 いまみたいに。

 ひやり、と背中を嫌な汗が伝う。


「みてみてまつりちゃん、ここからだとあっちにきれいなお花がいっぱい咲いてるのがみえるよ」

 お花畑を見つけたのか、声を弾ませたひめちゃんは、ぱっと岩にしがみついていた両手を離し、私を手招きした。

 え?


 ぐらり、とその身体が後ろに傾く。

 子どもの身体は頭が重い。まともに後ろから落ちると受け身も取れない。


「ひめちゃん!」

 同じく6歳の身体の私には、咄嗟にひめちゃんを庇いながら一緒に岩から落ちていくことしかできなかった。


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