第2話 幼馴染ポジションとしての自我が芽生えました


 この世界は、「私」が生前熱中していた乙女ゲーム『桜の誓い ―君と紡ぐ私達の物語―』(全年齢)の世界だ。

 間違いない。

 だって、現実世界の日本には、まっ茶色な髪の大人すらそうそういないし、赤や緑の髪色で肌が真っ白な人間もそうそういない。

 そもそもひめちゃんだって、綺麗なブロンドのボブヘアなのに、顔は日本人だ。

 そんなの、常識で考えて、ゲームの世界以外にない。


「今は、ゲーム開始前の幼少期……」

 見たところ、わたしはゲームスタート時から登場する幼馴染、長瀬茉莉ながせ まつりで間違いなさそうだ。


 茉莉のゲーム内での立ち位置は一ノ瀬真姫のサポート役だった。

 となるとわたしに求められているのも彼女のサポート役としての成長と、信頼関係の構築だろう。


「えっと、まつりちゃん」

「まって、ひめちゃん、いまわたし考え事しているの」

「うん、でもまって、まつりちゃん、あのね」


「ああもう、ひめちゃん、なに?わたしいま、だいじなことを……」と答えるが早いか、必死の形相でひめちゃんがわたしの腕をがしりと掴む。

 至近距離で迫る瞳に、何も言えなくなる。


 流石は主人公、といったところか。

 こんな歳でも人を魅了するものがあるのかもしれない。

 うん、なんだかこんらんしてきた。


 その時、ぽたり、と額から何かが落ちてきた。


「まつりちゃん、あたまから、その、血がでてるから、おとなのひと、よんでくるね」

「へ?」

「だから、ぜったいに、ここから、うごかないで」

「……は、はい」


 脱兎のごとく駆けだすひめちゃんのちいさな後ろ姿を見送りながら、その時初めて、どくどくと自分の頭から血が流れ出ていることに気づいた。

 血液って、体温と同じ温度だから意外と流血しても気づかないもんなんだ、って漫画で読んだな確か。

 あの漫画ってこの世界にもあるんだろうか。


 そんなことを思いながら、そのままわたしは気を失った。

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