第7話 聖夜デートなんて夢のまた夢

 もう十二月に入り、期末テストを乗り越えた俺に死角などない。そう思っていた時期もあった。


 とにもかくにも十二月だ。そして十二月といえばクリスマス!このクリスマスとかいう存在を、俺は見逃していたのだ。


 まあきっと今ごろ街にはリア充どもで溢れ変えることだろう。せいぜい爆散するくらいの幸せにでも包まれとくんだな。


「そして俺は今年もクリぼっち、と」


 何故だろう。俺の仲良い友人、全員恋人いるんだけど。みんなクリスマスはデートするから俺と遊ぶ暇はないってさ。こちとら恋人いない歴イコール年齢なのに。世の中は不平等である。


「……リビングを占領してゲームでもするか」


 気分転換しよう。ゲームして嫌なことは忘れよう。そう思いながらリビングに行くと、そこには我が兄がいた。


「まさか兄貴も」

「まごうことなきクリぼっちだが何か?」

「兄貴……!」


 そして俺と兄は硬い握手をかわした。持つべきものはクリぼっち仲間の兄、ってな。


「それにしても、兄貴。何を作ろうとしてるんだ?」


 リビングのテーブルの上には布と裁縫道具がおかれていた。


「サンタさんの帽子」

「え?」

「この世にサンタさんがいないなら、せめて俺がサンタさんになろうと思ってな」

「へ?」

「最初は店で買おうと思ったんだ。でも、見るからにクリぼっちの民の俺がそんな物を買える空気じゃなかった」

「……店で買うのが無理ならさ、ネットで買えば良かったんじゃね」

「た、確かに」


 でもクリスマス当日の今から注文しても間に合わないもんね。となればやはり作るしかない。


「兄貴、俺も帽子作り手伝うよ」

「いいのか!?」

「兄貴、めちゃくちゃ不器用だから一人で作業させるの心配だからな。それに俺は暇人だし」


 ということで俺もサンタクロースの帽子を作ることとなった。ちなみに兄貴の不器用さをなめてはいけない。家庭科実技の成績は最低ランクだった。普段は定期テストでカバーしているらしい。


「兄貴、ストップストップストップ!針が指に当たってる」


 言ったそばから怪我しかけている。幸い、針が指に刺さる直前に止めることができた。前途多難だなあ。


「兄貴、ステイ!ステイ!裁ちバサミが手を切りそうになってる!」


 危なかった。あとちょっとで兄貴の手に切り傷ができるところだった。





「兄貴!」「ストップ!」「危ない!」「ヤバ」「 」「」……






 兄貴の動きがあまりにも危なっかしいので、結局のところ俺がひとりで作業することになりましたとさ。あ、兄貴が悔しそうにハンカチ噛んでる。作業するのは我慢してくれ。安全第一、マジ大事。


 そして地道に縫い刺しをして数時間。


「やっと完成した!!」

「プロクオリティすぎる。もしや俺の弟、天才?」


 兄バカが発動されているのは軽くスルーして、兄の頭に帽子を被せる。そしてこっそり作ったつけ髭も顔に引っ付けて。


 兄サンタの完成である。

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