第5話 借り物競争
文化祭が終わり、クラスには平穏な日常が戻ってきた。と言う訳でもなく、新たな行事がやってきた。
体育祭である。何故なら秋は芸術の秋だけでもなくスポーツの秋でもあるからな。
ひとり一個は競技に出ないといけないから、俺は障害物競走を選んだ。障害物の部分が大半を占め、俺の足の遅さがそこまで露見しない競技だと考えたからだ。
案の定俺の予想は当たっており、体育祭本番でも無難な順位を取ることができた。
だが問題はここからだ。次の競技は借り物・借り人競争。漫画の世界で青春している系の人間が必ず参加する競技。
そして目下の俺のライバルこと転校生くんが参加するのだ。もちろん、うちの学校はノリが良いため競技のお題の中には『好きな人♡』も混ざっている。
この競技をきっかけに転校生くんがレン相手に実質告白をされてしまったら!そう考えると正気ではいられなかった。
「これより、各クラスの代表選手による借り物・借り人競争を始めます」
心臓の音が五月蠅い。
「いちについて、よーいどん」
代表選手たちが走り始め、お題のゾーンへと辿り着く。転校生くんも例に漏れず、お題の札をめくる。そして一瞬フリーズしていた。
何だ!?もしかして引いたのか!?『好きな人♡』を!?
転校生くんがうちのクラスのテントめがけて走って来る。そしてレンの前に行き、立ち止まる。
もしや、もしや、そういうことなのか。
「たのむ、スマホを貸してくれ!!」
え。
「スマホ?うん、わかった。どうぞ」
「マジでありがと」
そしてレンは転校生くんにスマホを渡す。すると渡すときの衝撃かなにかで、スマホの画面がついた。
「!?」
そのスマホのロック画面にはカブト虫の写真が使われていた。しかも、かなりドアップの写真だ。
「か、カブト虫……?」
呆然とする転校生くん。心做しか、魂が抜けているように見える。もしや転校生くん、虫は苦手なのだろうか。
ゴンザレス二世、よく見たら結構可愛いのにな。まあ、虫が苦手な人にはキツイか。ちなみにゴンザレス二世とは、レンの愛カブト虫でありロック画面の写真にもされている子のことだ。さすがレン。ネーミングセンスも天才だ。
「と、とにかくスマホありがとな」
気を取り直した転校生くんはゴールへと向かっていった。
ゴール地点にいた体育委員の生徒がお題を確認しながら借り物であるスマホを見る。
「お題は『クラスメイトのスマホ』ですね。無事に正しい物を借りてこられたので、ゴールです」
とりあえず、『好きな人のスマホ』とかがお題じゃなくて良かった。
これで今日の心労はもうな──
「続いて、応援団による応援合戦です」
俺が学ラン姿のレンを見て意識を手放すまで、あと三秒。
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