第3話 負けヒーローども

 夏休みも終盤に差し掛かり、俺とレンは宿題に追われていた。


「おーう、お前ら。宿題は捗ってるか?」


 ノックもせずに俺の部屋に入ってきた不届き者は、我が兄だ。


「おにーさん、お邪魔してます」

「いっつも愚弟に勉強教えてくれてありがとな、レンちゃん」

「あははー、それほどでも」


 折角おうちデート(笑)を満喫していたというのに、我が兄はつくづく空気を読まない。部屋に乱入してこないでほしい。


「あ、ここの計算間違ってるよ」

「ホントだ……!ありがとうございます、おにーさん」


 しかもいつの間にか兄が勉強に合流する流れになってるし。


「ここはこの公式で」

「なるほど」

「こっちの読解は──」


 ねえ。泣いても良い?というか泣いちゃうよ。いつの間にか二人の空間が出来上がってるぞ。俺を置いてけぼりにしないでくれ。


 そうこうしているうちにレンの帰宅時間となり、勉強会は解散となった。なお、我が兄は最後まで居座っていた。赦さねえ。


「……レンちゃん、かわいかったな」


 ボソッと呟かれた兄の言葉に鳥肌がたった。身内にもライバルがいる俺、マジで不憫すぎる。


「兄貴、もしかしてロリコンか?」

「は?俺は別に幼女趣味じゃない」

「ロリータ・コンプレックスの定義はな、十二才から十五才が恋愛対象のやつのことなんだよ。んで、レンは十五才。つまり兄貴はロリコン」

「じゃあ世間一般の幼女趣味はロリコンじゃなくて何て呼ぶんだ?」

「アリス・コンプレックスとかハイジ・コンプレックス」

「なるほどな。てか何でお前そんなに詳しいんだよ」

「トゥイッターで古代兵器が言ってた」

「あーね」


 結論。兄はロリコンである。それだったら兄と同じくレンを好きな俺もロリコンだって?俺はレンと同い年だからセーフだろ。兄はもう十八歳だからね。成人だしアウト。


 いやまあ俺とレンが高校一年生で兄は高校三年生だし。同じ高校生という点では普通にセーフなのか?


「だが兄貴よ。悲報がある」

「何だ我が弟よ」

「俺ら兄弟は残念ながら脈ナシだ」

「わかってはいたが事実をつきつけるな。悲しくなるだろ」

「だがこれが現実なのだ」

「うっ……」


 唐突に謎テンションで話始めた俺に合わせてくれる兄。そういうノリの良いところは嫌いじゃないぜ。


「所詮俺らは負けヒーローなのさ」

「『負けヒーロー』?」

「よく、幼なじみ女子は負けヒロインって言うじゃん。その男版」

「嗚呼、だから『負け』なのか。でも『ヒーロー』を自称するのはナルシストすぎじゃねえか?」

「でも俺ら兄弟は顔良いじゃん」

「まあ確かに顔だけは良いな」

「だろ」


 言ってて虚しくなってきた。端から見ればただのナルシスト兄弟。外聞が悪すぎるなオイ。

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