第2話 玉☆砕

 今日はおそらく全校生徒が待ちに待った日である。そしてそれと同時に全校生徒が地獄を見る日。


 ズバリ、終業式だ。


 え?何で地獄かって?明日から夏休みという最高な日なのに、何が不満かって?


 よーーく考えて見給え。終業式といえば、体育館に集まって地べたに座り教師の話を聞く。しかし、今は七月。夏である。この学校の体育館にはクーラーなんてハイテクな機械なぞない。金がないからね。そんな空間に全校生徒が集まる。蒸し風呂の完成だ。


 しかも校長の話は長い。あり得ないくらい長い。その間俺たち生徒はこの蒸し風呂で座るから、暑いし尻は痛い。最悪である。


 校長の話が終わったと思えば今度は生活指導の教師が話し始める。夏休みとはいえ羽目を外しすぎるなよ、とか熱中症に気を付けろよとか。前者は兎も角後者はおまいう案件だろ。今まさにこの状況のせいで熱中症になりそうなんだが?とか悪態をついてたら終業式は終わった。


 ゾロゾロと体育館を出て教室に向かう。廊下は大混雑だ。


「さっさと教室入りてえ」

「だよね、教室ならクーラーあるし」


 駄弁りながら長い廊下を抜けると、そこは天国だった。


「す、涼しい」

「なるほどここがオアシスか」

「違いねえ」


 だがしかし、平穏は長くは続かないもの。そんなことはわかっていたはずなのに。


「じゃあ通知表を返すぞ」


 担任教師の何気ない一言。この一言で、場は天国から地獄に突き落とされた。地獄の再来である。


 そしてここからの記憶はない。気がつけば俺は家の自室にいた。いやマジで俺に何があったんだよ。


──コンコンコン。


 いきなりノックの音が聞こえ、少し驚く。だがドアを開けても誰もいない。あきらめて振り返ると、窓にレンがいた。


 俺が窓を開けるとレンは勢いよく部屋に入り、床に向かってダイブ。そして華麗に着地した。


「で、何の用だ」

「新作のゲームをオールでしようと思ってね。コーラとポテチも持ってきたよ」

「ほう。ちなみにポテチの味は?」

「コンソメ」

「邪道が。ポテチといえば薄塩だろ」

「コンソメにはコンソメの良さがあるもんね」

「よろしいならば戦争だ」


 窓を伝って幼なじみが部屋にやってくるなんて、普通に脈アリではとか思うかもしれない。だが、脈アリの男の家でオールするか普通。もっと恥じらうとかあるだろ。


「ということでオールするよ!」

「おー」

「レン……?」

「ひっ」


 底冷えするような声が聞こえ、恐る恐る後ろを向く。そこにはレンの母親がいた。


「人様のお家に押し掛けないの。それにゲームでオールもやめなさい」

「はいはい」

「はいは一回」

「はーい」

「伸ばさないの」

「はいっ」


 ちなみにレンが我が家でオールしようとして失敗するのはこれで通算百三〇回目だ。ちなみに成功率は〇割。ここまでくると逆にすごい。


「それにしても一体誰に似たのかしら。何度もめげずに突撃してオールしようとするなんて。……もしかして彼女ポジションを狙ってたり?」

「それはない」


 【悲報】俺氏、告白してないのにフラれる。泣いても良い?あ、レンのママさん、ドンマイみたいな視線を俺に向けないで。本当に泣きますよ。

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