負けヒーローズ
睦月
第1話 曲がり角では
「いっけなぁい、遅刻ちこくぅ」
少女マンガのヒロインでも今どきは言わないような台詞を素で言っている少女。そして少女は曲がり角でこれまたイケメンとぶつかっていた。ちなみに少女が咥えていた食パンは地面に落ちた。
俺はこの光景を少女の数十メートル後ろで目撃してしまった。なんせ、俺も遅刻しそうになっていたのだ。
今の俺は、爽やかな朝だというの絶望のドン底だった。だって、また恋敵が増えてしまったからだ。
あの少女の名前はレン。俺の幼なじみであり、俺の初恋の相手でもある。というか現在進行形で好きな相手だ。そして、何よりも重要な点は。
曲がり角でイケメンとぶつかることから分かるように、ヒロイン体質なのだ。
おっと、呆けている暇はない。このままでは本気で遅刻をしてしまいそうだ。前方を見ると、レンもイケメンも姿を消していた。おそらくすでに学校へと向かったのだろう。
俺も急がないと。少し早足で進んでいると、地面に落ちている物に気がついた。先程レンが落とした食パンだった。
あのさ、別に俺も口うるさく言いたい訳じゃないけどさ、自分で落とした食パンの処理くらいしてから立ち去れよ。ポイ捨て、ダメ絶対。
俺は鞄からビニールを取り出し、食パンを入れる。ゴミ袋にできるようにビニールを持ち歩いていたのが功を奏した。
学校に着いたら捨てるか。あ、でも学校って家庭ゴミの持ち込みはアウトだよな?これを家庭ゴミと呼んでいいのかはわからないが。というか教室のゴミ箱に食べ物を捨てるのは普通に衛生的によろしくないのでは。Gが出てきそう。
というかもしかしてこれって食品ロス?食べた方が良いのだろうか。でも地面に落ちた物を食べるのも衛生的によくないしな。
「よし、落とした本人に指示をあおぐか」
そして俺は学校へと猛ダッシュし、滑り込みで教室に入った。
「かくかくしかじかという訳なんだが、この食パンはどうすれば良い?」
「わあ、わざわざ拾ってくれたんだ。ありがとう!この食パンは私が責任を持って持ち帰るね。そして明日の可燃ゴミで捨てる」
レンは食パンを捨てることを選んだようだ。俺は彼女の選択を尊重し、ビニールを彼女に手渡した。
「お前らさっさと席に着け。朝のホームルームを始めるぞ」
慌てて俺たち生徒は自分の席へと戻る。我らが担任は怒らせたら怖いからね。
「ということでサクッと本題に入るな。今日はなんと、転校生がいる」
ふーん、転校生か。えらい中途半端な時期に来るなあ。もう夏休み直前だぞ。こーゆーのって長期休み中に引っ越しとかした方が楽そうなのに。
「入ってきていいぞ」
教室の前方のドアが開かれた。そして男子生徒が教室に入り、教卓前で立ち止まる。
「あ、あんた!さっきの!」
突如としてレンが立ち上がり叫ぶ。
「お前は!?さっきぶつかってきたクソ女!!」
どうやら転校生の正体は、登校中にレンにぶつかったイケメンのようだ。ところで、クソ女とはなんだクソ女とは。レンは全くクソではない。こいつの目、さては腐ってやがるな?
「なんだお前ら、知り合いだったのか。折角だし休み時間にでも学校案内してやれ」
「「知り合いじゃないです」」
「息ぴったりだな。さては知り合いどころか大親友か」
「「違います」」
ちょっと待ってくれ。レンが転校生に学校案内するだと。少女漫画のような展開すぎる。俺ですらレンに学校案内してもらったことがないのに。羨ましけしからん。
俺のなかの冷静な部分が、俺は別に転校生でも後輩でもないのに案内してもらえるわけないだろうと囁いている。だが、そんなことは関係ねえ。羨ましいんだよこんちきしょう。
「じゃあ、席は窓際の一番後ろに座ってくれ」
しかも青春席だと!?誰もが憧れてやまない席じゃないか。これで隣の席がレンだったらいよいよ恨むぞ。そうおもいながら振り返ると。
転校生の隣には誰の座席もなかった。というかその隣もさらに隣もなかった。要するに、一番後ろの列は彼の席しかない。
それもそうか。彼は時期外れの転校生だし急遽席が用意されたのだろう。転校生の席が妙に埃被っている気がするのも、それが所以だろう。
「授業を始めますよー」
どうやら一時間目の担当教師が来たようだ。しれっとホームルームが終わってて衝撃。
あれ。
転校生、自己紹介してなくね。でも授業始まっちゃったし。恨むならあの雑教師な担任を恨むことだな。べ、べつに名前を知れなくて悲しいとかじゃないんだからな。
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