第191話

謁見を終えてからの貴族の対応は素早かった。

連日、多くの貴族から面会の申し出がある。

今まで注目されていなかったシュバルツを見極めようという意図は明らかだった。

そして、一番困ったのはリチャードの娘で同い年の13王女クラウディア王女が暇を見つけては遊びに来ることだろうか。

「シュバルツ~。遊びにきたよ」

「クラウディア様。また来られたのですか?」

「だって。シュバルツの所に来たら美味しい物がでるから・・・」

救いなのは恋愛感情ではなく食べ物に釣られてきているということだろうか。

「はいはい。それでは手を洗ってきてくださいね」

「は~い」

クラウディアはそう元気に返事をして手を洗いに行った。

その間にシュバルツは修行部屋に移動して倉庫区画で今日出すおやつを吟味する。

「う~ん。今日はこれにしようかな」

シュバルツはブルーベリーを手にするとブルーベリーパイを作りはじめた。

最初の頃は失敗したが何度か挑戦するうちに料理スキルが生えてきて手慣れた物だ。

「よし。完成と。後はお気に入りの桃のジュースを出せばいいかな」

クラウディアが喜ぶ様を思い浮かべ修行部屋を後にする。

美味しそうに食べるクラウディアの姿をシュバルツは嫌いではないのだ。

「手。洗ってきたよ」

「うん。こっちも準備できたところだから」

シュバルツはクラウディアの目の前で焼き立てのブルーベリーパイを切って見せる。

「今日のもとっても美味しそう」

ブルーベリーパイを見つめるクラウディアの目はきらきらと輝いている。

「はい。後はこれね」

「うんうん。ここに来たらやっぱり桃のジュースだよね」

「ゆっくり食べてね」

シュバルツが皿をクラウディアの前に出すと同時にフォークで切り分けて口に運んでいる。

「うん。今日のもとっても美味しい。シュバルツはいいお嫁さんになれるよ」

「う~ん。そう言ってくれるのは嬉しいけど普通逆じゃない?」

「細かいことはいいの。あっ。貰い手がいなかったら私が貰ってあげるからね」

シュバルツはそれを聞いて苦笑いする。

家格を考えたらありえないことではない。

クラウディアは顔も整っているし人懐っこい。

それに子供達に甘いリチャードの性格を考えたら本気で検討しそうでもある。

「立場をもう少し考えてくださいね」

「えっ~。大人達みたいなこと言わないでよ。シュバルツと私の仲でしょ?」

「親しい仲にも礼儀ありですよ?」

同い年の子と接するのは悪いことではないが王女であるクラウディアと公爵家の生まれとはいえシュバルツの間には埋められない身分差が存在している。

「文句を言う人がいたら私が黙らせるわ」

そう言いつつもブルーベリーパイを食べる手は止まっていなかった。

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