第3話
球体空間内での戦闘を行った後、A・M小隊は空間内にあった一つの入り口を使って、巣の中心部へと足を運んでいた。三度訪れる広い空間。そこで誠たちはとてつもないほど悍ましい光景を目の当たりにする。
目の前の道は消え、その奥に巨大な四角錐の墓石があった。悍ましいのは、四角錐の三角を構成する辺が全て腕でできていること。百ほどの腕を持つ不気味な怪物だ。墓石の下に顔を向けると無数の穴が開いており、そこからひとつ目の半人半獣の怪物が次々と出て来ていた。
おそらくここから多くの怪物が生み出されているに違いない。
そして、目の前の高さ10メートルはあると思われる巨大生物はEISの親玉であろう。
やつを起こすのは危険だ。誠の直感がそう叫んでいた。
起爆剤を置くことだけに専念しよう。誠は後ろにいる隊員に手でジェスチャーすると腰部に装着した包みから起爆剤を取り出す。それをゆっくりと地面に置いた。
刹那、前に気配を感じた。反射的に顔をあげると半人半鳥の怪物が目の前にいた。ひとつ目はしっかりと誠のことを捉えている。誠の脳は必死に『半人半鳥を攻撃するか』を判断していた。ここで攻撃すれば、巨大生物を眠りから覚ましてしまう可能性がある。かといって、ここで攻撃しなければ、確実に自分が死ぬ。
悩んでいると誠の顔の横を風が切った。それが弾丸だと気づくのに時間がかかった。弾丸は半人半鳥の怪物の頭を撃ち抜く。半人半鳥の怪物は羽の動きを止めて落下していく。誠の視界から消えた半人半鳥の代わりに、奥にいた巨大生物の顔がこちらを向いていた。
閉じられた百の腕が一気に開かれる。そこから現れたのは三つの顔だった。通常の人間の位置にある顔に右胸上、左胸下にそれぞれ一つずつ顔が埋め込まれている。
巨大生物の目覚めに反応するように誠は腰部につけた二本の刀を手に取った。
『戦闘用意!』
その掛け声とともにMADの機動力をフルスロットルにして空を駆ける。誠に続いて他の機動隊員たちも宙を舞う。皆、別々の場所へと飛び立ち、巨大生物の攻撃を撹乱させる。
銃器を持った機動隊員は銃口を下に向け、引き金を引く。電子光線が発射され、穴から這い出て来る半人半獣の怪物たちを一掃していった。下は火の山と化す。
すると、前にいた巨大生物が動きを見せる。百の腕を勢いよく外へ向け、四方八方に張り手を食らわせる。誠たち機動隊は飛行技術でうまく交わしていく。時間差でやってくる張り手の攻撃に数人の機動隊が囚われ、壁に叩きつけられた。
MADが壊れ、下の火の山へと落ちていく。彼らを助けようにも絶え間なくやってくる張り手に注意を取られ、思うように動けなかった。
1発目の攻撃で隊員の3分の1がやられた。このまま巨大生物の思うままに攻撃されてしまえば、すぐに全滅してしまう。
誠は腕につけられたスイッチを押し、腕からCADを取り込む。筋力が強化され、興奮作用が働く。縦横方向に移動していた飛行に前後方向が加わる。うまく巨大生物の腕を回避し、胴体に直行していく。
肩の辺りまでやってくると持っていた二本の刃を立てる。しかし、硬い鱗に攻撃を弾かれる。誠は一瞬怯むものの、腕のスイッチを押し、さらにCADを取り込む。
上に飛んだ後、急激に下降していく。助走をつけ、再び二本の刀を振り下ろした。今度は弾かれることはなかった。ただ、刀の動きが肩に入った瞬間に止まる。
舌打ちをすると、刺さった片方の刀から手を離し、三度CADを注入していく。
大幅に増強された筋肉。刀を持つと一気に右肩から左脇腹へと一閃していく。途中経路にあるのは巨大生物の二つの顔。それらの目が切り刻まれる。
巨大生物は悲鳴をあげる。そして、同時に誠も悲鳴を上げた。
大幅な筋力強化による副作用として、強烈な筋肉痛が走る。誠はこのまま動きを止めたら、戦闘不能になると感じた。
飛行技術により、再び上昇していく。残りの顔は一つ。
天へと飛び立ち、一気に下降していく。そのタイミングで巨大生物は激しく右に回転をする。百の手がものすごい勢いで振られ、風圧で隊員たちを取り込み、ラリアットをかまそうとした。
急降下した誠はそのまま攻撃を続ける。彼にとっては攻撃を止めて筋肉断裂に遭うか、それとも巨大生物の腕に巻き込まれるかは大差のないことであった。
今までの経験値を生かして、巨大生物の動きを見極める。
見えた。そう思った瞬間、さらに加速。
自身のスピードのせいか、動きがゆっくりに見える。巨大生物の頭を捉えた誠は迷うことなくそのまま刀を振り下ろしていった。
怪物の手の動きが止まる。頭を真っ二つにされた怪物は胸の辺りを飛ぶ誠に目を向けていた。誠と視線が交差する。そしてそのまま巨大生物は白目を剥き、生えていた手は火の山へとゆっくり降りていった。
巨大生物を倒した。誠は喜びと痛みに身を震え上がらせた。
やっとEISを全員倒すことができた。CADの副作用により、筋肉は断裂。腕と脚に血が流れる。とはいえ、MADを使えば帰ることはできる。
あとは起爆剤を設置すれば完了。
誠は起爆剤の設置命令とともに勝利を祝福しようと機動隊員たちのいる外側を向いた。
しかし、そこには機動隊員は一人もいなかった。代わりに半身半獣の怪物があちらこちらに潜んでいた。
瞳孔が開くのを感じる。彼らが機動隊員を殺してしまったのか。
怒りに震え上がった。ボスを倒したというのに、彼らはまだ無駄な足掻きをするというのか。筋肉の痛みが怒りで消え去る。
「うぁーーーーーーーー!」
素早い飛行技術で空を飛ぶ半人半鳥を斬りつけていく。そして、最初に入ってきた場所を含むいくつかのポイントにいる半人半馬をも斬りつけていった。誠は機動隊員の恨みを晴らすように必死に刀を振るった。
それが半人半獣に化けた『機動隊員』であることも知らずに。
CADの副作用は筋肉断裂だけではなかった。誠は『幻覚』に溺れていたのだ。
今の誠の視界には全てのものが半人半獣に見えていた。誠はまるでEISに寝返ったかのように機動隊員たちに躊躇なく刀を振るった。
やがて辿り着いた他の小隊をも攻撃していく。
暴走する誠に対して止めようとするもののCADの恩地を受けた誠の強さは常軌を逸していた。
誠の刀を受けた一人の機動隊員が倒れた際に、自身からこぼれ落ちた起爆剤に目をやった。歯を食いしばり、「みんな……すまない……」とひとりでに呟くと、ポケットからスイッチを取り出した。
そして、全機動隊員もろともEISの巣を爆破させた。
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