第51話 二つの交点
目を覚ますと、体は柔らかいものに包まれていた。
のらりくらりと起き上がり、辺りを照らすと、そこは布団の上。
そうか。落ちた衝撃で、気を失ってしまったのか。
幸いにも、体に痛みなどはなく、怪我もしていなかった。
布団を先に落としておいたのは、正解だったみたい。
目の前でチカチカと光るカラフルなボールを何気なく拾った瞬間、今の切羽詰まった状況を思い出す。
「やばっ! 今、何時!?」
腕のライトを頼りに、慌ててバッグの中から小さなデジタル時計を取り出す。
時間は15:30と表示されていた。
落下してから、五分くらい気を失っていた。
でも、追手が来ている様子はない。
とにかくここから移動しよう。
ライトで辺りを照らし、周りをくまなく調べる。
ここは六畳くらいの長方形のゴミ置き場のようで、回りは金属で囲われていて所々に
そして壁に大きな扉があり、横にスライドすると軽々と開いた。
こっそりと出て、耳を
周辺は物音ひとつ聞こえず、真っ暗。まだ電気は復旧していないみたいだ。
ライトで足場を照らすと、同時にオイルと錆の臭いで今の居場所が分かった。
「ノアちゃんに捕まったあのスクラップ場だ……」
なるほど。ここに繋がっていたのか。
右側にはロードと登った階段。左側にはノアちゃんと乗ったエレベーターがある。
だが、以前来た時より心なしか暑い気がする……。
海の底なら寒いのでは? と思うところもあったが
気にせずに大きなバッグを背負い、ロードと通った階段を小走りで登る。
階段上の綺麗なドアを開けると、真っ暗な中に大きな
これはカニ型ロボットの
これは私を追って行った、二機のエビ型ロボットだろう。
よかった。ロードは問題なく倒したみたいだ。
壁沿いに手を当てて、歩いてゆくとエレベーターを発見した。
しかし、電源が通っておらず、動きそうにはない。
そしてその奥。部屋の隅に扉があり、開いてみると上へと続く階段を見つけた。
「また階段……」
疲れからか不満を口にしながらも、しっかりと足場を照らしながら渋々上がってゆく。
途中、突然上から大きな爆発音がした。
「なに!?」
続けて何かが崩れる轟音。追い打ちをかけるように爆音が響く。
上で何かが起こっているみたいだ。
さっきよりも慎重に歩みを進め、問題の扉の前に着く。
おそらくさっきの音の出処はこの部屋だろう。
今は静まりかえった部屋の扉を開けると、最初に焦げた臭いが鼻を衝く。
目に入ったのは、炭の塊と見間違うほどに真っ黒に焦げた大きなロボット。
そして、チカチカと切れかかった大きな電球の前に立つ人影。
その瞬間、謎の安心感が私の心を覆った。
逆光で人は特定できないが、私には分かる。
おそらく彼だろうと。
振り向くと、私の心配などいざ知らず。
「よう、朔桜。元気そうだな」
と不敵な笑みを浮かべた。
お互いの無事を確認すると、ロードはいきなり私を抱え
飛翔で飛び上がって壊われた天井から上の階へショートカット。
今いるのは階層で言えば四階。他の階と同じく広い。
その部屋の隅にも階段とエレベーターがあり、更に上の階があるみたいだ。
「そろそろノアちゃんが来てもおかしくないよね?」
あれだけ派手にドンパチしたのだ。
すぐ駆けつけて来てもおかしくない。
辺りをキョロキョロと警戒し、不安そうにロードに尋ねる。
「あいつは来ないはずだ。いや、正しくは
「どうして?」
「停電してるからな」
「停電? それってどういう……」
私の話の途中にロードは加速し、階段を上る。
「教えたところで、お前がノアと戦うわけじゃないだろ?」
「むー」
膨れた顔でロードを凝視し、反抗してみせるも全く気付いていない様子。
いや、本当は気づいているのに相手にしていないのかもしれない。
「とにかく急ぐぞ。最悪、装備一式持って逃げられている可能性もあるけどな……」
ロードは珍しく焦りをみせていた。
「たぶんだけど……それはないよ。
Dr.Jは、誘拐してきた子供たちを本当に大切にしていたみたいだから
置いて行って私たちに丸投げする、なんてことはしないと思うの。
だから今は子供達を優先して助けているんだと思う」
「……それならいいんだがな」
ロードが扉を乱暴に蹴り開けると、そこは薄緑のライトが光る怪しく部屋に繋がっていた。
顕微鏡やフラスコ、大量の薬品が机の上に乱雑に置かれている。
何千万もしそうな大きな重機。見た事のない最新鋭の設備の数々。
縦長の大きながたくさん並んでいて水のようなものが入っている。
おそらくここはDr.Jの研究室だろう。
ガラス容器の中にロードが着ていた黒鴉の衣が入れられていた。
ロードは躊躇なくガラスを風の魔術割り、衣を取り出す。
「くそ……こんなにびしょびしょにしやがって……」
衣を大きく広げ、自分の魔術で水気を飛ばしている。
その間に私も奪われた物を探す。
「あった!」
ガラス容器の横に黒鏡とペンダントを発見。二つとも無事だ。
黒鏡を確認すると一件の通信が着ていた。
慌てて折り返しの通信をする。
衣を乾かし終えたロードは、ズカズカと先に進み、扉を蹴り開けていた。
そこは単調で淡白な一室。家具も必要最小限と言っていいほど少ない。
おそらくDr.Jの部屋だろう。本人の姿はどこにもなく、ノアちゃんもいないみたいだ。
「もぬけの殻か……。雷電池と黒鏡はあったか?」
足早に
「うん、あったよ! 今
首にかけたペンダントをロードが差し出した手に当て、消費した魔力と傷を回復させる。
「よし、回復と装備の回収は済んだ。一度引くぞ」
ロードは再び私を軽々と抱え、すぐに部屋を後にした。
「子供たちを助けに行くの?」
ロードの下顔を見上げながら問う。
「いや、それはまだだ。ノアをどうにかしない事には何も出来ない」
「じゃあ、どうするの?」
「まずは電力源を断つ。どこでもいい、心当たりはあるか?」
「心当たり……うーん」
下唇に指を当て、視線を外に
「あ、あそこは? スクラップ場!」
「そこだと思う根拠は?」
「根拠は無いんだけど、子供たちがいた
その下がたぶん、スクラップ場のはずだから可能性はある……かも。
それに最初にロードと入った時よりも少し暑かったんだ。
もしかしたら、機械が壊れて熱暴走してるのかもしれない」
「根拠としては十分だ。闇雲に探すよりもとりあえずそこに行ってみる価値はある」
ロードは更に加速。
あっという間にスクラップ場へ到着した。
電気の球体をスクラップ場の天井に張り付け、すぐに周辺に探し出す。
私は黒鏡をもう一度確認した。
「あの~ロードさん? 申し訳ないんだけど……頼みがあるんですけど……」
「なんだ? 手短に話せ」
私の方を向かず、周辺を捜索しながら耳を向ける。
「えっとね……一度、海上に上がってほしいの」
「海上に? ダメだ。電力が復旧されたら、俺らに勝ち目ははぼ無くなる」
「じゃあ、私が電力源を探しておくから!」
「お前には無理だ。もし、探せたとしても破壊できないだろう」
「無理じゃないよ! 電線をショートさせて、ここを停電させたのは私だよ?」
私の言葉を聞き、ロードの手が止まる。
「お前が停電させたのか……」
感心しているのか、驚いているのか
そんな様子で私を見る。
「海上に上がって何をするんだ?」
私の成果を知ってか、ロードは私のお願いに耳を傾けてくれた。
「行けば私が何をしてほしいか分かるから!」
要件は伝えない。
何故なら言ってしまえば、絶対に断られてしまうからだ。
ロードは
「……仕方ない、行ってやる。その代わり絶対に探しておけよ。
後、何か異変があったら連絡しろ」
「りょ、了解しましたぁ!」
挙動不審な私を
「……まあいいだろう。すぐに戻る」
船着き場の方へ風の様に飛んで行った。
「ロード怒るかな……。とにかく私は私のやるべき事をやりますか!」
いそいそと手を動かし、辺りをくまなく探し始めたのだった。
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