第50話 人間の玩具

目を覚ますと、俺が居たのは照明がより眩しく感じる白い部屋。

冷たい台の上に寝かされているみたいだ。

さっきの戦いで血を流しすぎたせいか、少し眩暈めまいがする。

身体中が分厚い鉄の拘束具でガチガチに固定されていて、身動きがまるで出来ない。

奴は手術室と言っていたか。

魔装『黒鴉の衣』も奪われてしまっており

胸元に穴が開いた血まみれの黒いシャツに血まみれの黒いズボンの状態。

爆雷を放ち、脱出を試みるも、クラブと同じ対魔術用になっているようでびくともしない。


「こりゃ……参ったな……」


まさか、ここまで用意周到に備えているなんて。

敵をあなどっていた。

生かされて捕まったという事は、何か利用価値があるのだろう。

俺を使って実験でもするのだろうか。

俺はすぐには殺される様子はないが、問題は朔桜だ。

Dr.Jと名乗る男は、宝具に関心が高そうだった。

今頃、ペンダントを奪うため殺されている可能性もある。

嫌な想像が頭をよぎる。

いや、今はそんな不確定な事を考えるよりも、脱出の方法を考えるのが先決だ。

知恵を絞り、考えていると突然、部屋全体が暗転する。

部屋の電気系統が全て沈黙している。

停電だろうか。なんにせよ、脱出するには絶好のチャンスだ。

行動するなら今しかない。

ダメ元で、爆雷をもう一度放つと、今度はあっさりと拘束具が吹き飛ぶ。


「なんでだ?」


手元からフレイレイドを出し、吹き飛ばした鉄を照らす。

よく見ると、鉄に太いケーブルが何本も繋がっていた。


「そういう事か」


鉄自体ではなく、電気を流すことによって作動させていた。

もし俺の仮定が正しいのなら、停電している今が

あのクソガキをぶっ倒す最初で最後のチャンスだ。

すぐに出入口の扉を爆雷で吹き飛ばす。

こちらも万全ではないが、一応、傷は塞がっている。

時間との戦いになりそうだ。


「さあ、二回戦を始めよう」


飛翔と雷狂、二つの属性の術を組み合わせ、宙を舞いながら強引に横の壁をぶち破っていく。

六枚ほどぶち破って辿たどり着いたのは、ついさっきノアと戦った広い部屋。

そこには、目がライトのように光るロボットが二十体ほどれていた。

どうやらその奥に薄っすら見える上り階段を守っているようだ。

反撃されるのも面倒だ。


「先手必勝」


ロボットの上空に飛び、真上から術を放つ。


「紫電―咲花!」


広範囲に枝分かれした雷がロボットを捉え、全機体を同時に破壊する。

守られていた階段の前に降り立ち、先に進もうとしたその時。

タイミングを見計っていたかのように、天井を砕いてクラブの時よりも

豪快に巨大なモノが落ちてきた。

頭の先から細く伸びた鉄竿。

鉄竿から出た太いワイヤーの先に焼けるような光量の光体をぶら下げたドでかい魚。

その光量のおかげで、敵の姿も部屋の隅々まで見渡せる。

これは図書館の魚図鑑で見たことがある。

チョウチンアンコウというやつだろう。

頭の先端の光を疑似餌に魚をおびき寄せ食べるらしい。

様子を見ていると、アンコウロボは先端の光体を振り回す。

鉄球はブンブンと部屋中に風を切る音が鳴り響く。

遠心力でさらに回転は激しさを増し、そして勢いを落とさぬまま、俺の真上に振り下ろされた。


「雷光!」


電光石火の如く、加速する術で上手くかわしたが、その威力によって部屋の床が崩壊。

俺は飛翔で空中に飛ぶ。


「しかし、とんでもねぇ威力だな」


威力だけなら中の上くらいの魔術ほどはありそうだ。

人間の“化学”という力も、舐めたものではない。


だが、所詮は人間の玩具がんぐ

溜めは長く、隙も多い。


「サンダーラ!」


小雷弾を放つと装甲に傷が付く。

クラブの様な対魔術装甲ではないらしい。

なら、この俺の相手ではない。


「消えろ、ガラクタ。紅雷―くさび!!」


広い部屋に赤い雷光と轟音が轟いた。

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