第46話 囚われ者の待遇
壊れた機械が放棄されたスクラップ場で
私はノアと名乗る少女に出会いあっけなく捕まってしまった。
「言う事に従ってくれたら何もしないよ? でも、逃げたら殺すよ?」
と脅されたので、共に誘導された場所に向かうところだ。
スクラップ場の暗い
少女は横に設置されたボタンに数字を打ち込み、ロックを開けた。
そこに押し込められ、二人で上の階に上る。
貨物運搬用だろうか。中は人二人がギリギリは入れるくらいで、とても狭い。
「うっ……想像以上に狭い……」
ドアが閉まると、ノアちゃんの顔が私の胸に深々と埋まった。
息苦しそうにジタバタともがいている。
こんな小さい女の子がここの管理者なんて。
いけない、傍観している暇はない。
どうにか私が捕まってしまった事を、早くロードに伝えなければ。
私は彼女が胸に埋まっている間に、自分のポケットの中を感覚で探る。
よし、これで連絡できたはず。
「ぷはっ……! 狭いから……動かないでくれる?」
谷間からやっと顔を出し、呼吸をしたノアちゃんの顔は膨れている。
どうやら怒っているようだ。
「あはは……ごめんね……」
「ノアだって変化すればそれくらい大きく……」
なにやら独り言をブツブツと言っているとエレベーターが止まり、扉が開く。
出た先は、清潔感のある白くて広い長廊下。
ここはクーラーで温度管理がしっかりされていて快適だ。
私が先導で歩かされ、
廊下の窓の外には、大小色とりどりの綺麗な魚が泳いでいる。水族館みたいでちょっと素敵だ。
辺りを観察し歩いていると、大きな扉の前で止まってと指示された。
足を止めると、先ほどと同様に数字を打ち込み、頑丈な扉を開ける。
扉を入った先にもまた扉。
でも、そっちの方は最初に通ったものよりは簡易的だった。
「じゃあ、あなたの隠している道具、全部出して?」
ここが監禁場所みたいだ。荷物没収もちゃんとするとは、意外と抜け目がない。
言う通りに渋々、『
「ん? そのペンダントもだよ?」
目ざとくペンダントの存在にも気づいていたみたい。
しかし、こちらは渡すのを
「これはアクセサリーだよっ! オシャレな小物! 怪しい物じゃないよっ!」
しどろもどろになりながらも、言い訳をつらつらと述べる。
「いいから渡して?」
白い布を床に伸ばして、体を浮かし、私と目線を合わした。
ノアちゃんは小さく細い白い手を私の首元に伸ばす。
しめた。ノアがペンダントに手を触れて、このペンダントに宿る宝具【
触れるタイミングを見計らい、駆け出す準備をする。
3…2…1…今だ!
しかし、ノアちゃんは結界に弾かれることなく、私の首元から普通にペンダントを取り上げた。
「どうしたの? そんなに目を丸くして?」
「えっ…? いやっ…? だってっ…? えっ?」
動揺が隠せない。
無効化する宝具【無事象】のような特別な力でなければ
この守護は通れないと以前ロードが説明してくれたはず。
なのにこの子は、普通に取ることが出来た。
ステンにあっさり取られた時の記憶が蘇ってくる。
おそらく、この子も
色々思考している最中に、ノアちゃんは突然両手で私の両肩をトンと押し、扉の中に押し込んだ。
「じゃあ、また後でね?」
すぐに扉に近づくも、一瞬だけノアの笑顔で手を振る姿が見え、扉は閉ざされてしまう。
扉を叩いてみるが、とても分厚く頑丈でコンクリートを叩いている様だ。
私の力では決して開きそうにはない。
途方に暮れていると、中扉のスピーカーに声が入る。
「ようこそ、
「こんにちは、えーっと……Dr.J」
「いひひ、丁寧な娘だねぇ。今の時代ちゃんと自己紹介できる娘はなかなかいないよ」
「それはどうも。あの、ついさっき養護施設から
素っ気無くお礼を言って、いきなり本題を切り出す。
「直球だね。でも、返さないよ。あの子はあそこに居るより、ここに居た方が幸せだ」
「それは貴方が決める事じゃないでしょ!」
「いいや、僕が決めるんだ。僕は神なのだから、いひひひひ」
ダメだ。これは話が通じないタイプの人みたいだ。
「あの小さな女の子は貴方が操っているの?」
「小さい女の子……? あぁ、ノアの事か。あれは私が作ったんだよ」
「作った? 人造人間ってこと?」
あの子が人間でないなんて信じられない。
肌も温かったし表情も言語も完全に人間だった。
「人造人間と言うより……
「人工宝具…? 宝具って作れるの?」
ロードは宝具はモノに宿る概念だと言っていたはず。
それを人為的に作る事が出来れば、ノーベル賞どころではない。
「宝具の事を知っているのかい? 若いのに歴史をちゃんと学んでいるんだね!
素晴らしい! 宝具について少し語ってもいいかな?」
「いや、私は――」
「古い
モノに宿る神の概念。いわゆる神の
「神の……遺物……」
「願えば叶うなんて最高だろう? 神様の特権だと思うだろう?
だが! それは違う! 人間でも出来るんだよ! 神の
声のボリュームをどんどん上げ熱弁してくるが、
スケールが大きすぎていまいち何を言っているのかピンとこない……。
「おっ、彼が下の階に着いた様だ。少し待ってくれ。」
「ちょっと!」
少しの静寂。そんななか、後ろの扉からなにやら声が聞こえてくる。
耳を澄ましていると突然の声に遮られた。
「ああ、待たせてごめんね、彼は君と話したいみたいだよ。いひひひ」
互いにスピーカーが繋がり、今の状況をロードに細かく説明する。
一番重要なノアが人工宝具だと伝えようとすると、ブツリとスピーカーを切られてしまった。
「さぁ、僕は鑑賞会でもしようかな、いひひ。」
「待って! 私を捕まえてどうするの?」
「君は、ここで使用人として使う事に決めたよ。ちょうど人手が足りなくて困っていたんだ」
「履歴書を持ってきていないので、出直してきます!」
「もう合格だよ、いひひ。なに、外のブラックな企業より遥かに待遇良くしてあげるし、三食宿あり週休二日で、欲しいものは日用品から高級品まで、何でも好きなだけ買ってあげよう」
「うっ……。意外とホワイト……」
「その代わり、死ぬまで外の大地を踏む事は出来ないけどね」
「超絶ド級のブラックじゃないですか!!」
「まあ、拒否権は無い。精々寝心地の良い好きなベッドを選んでおくといいさ、いひひひひひひひ」
奇妙な笑いを最後にDr.Jの声は途絶えたのだった。
「どうしよう……」
途方に暮れていると、背後のドアの奥から、かすかに声が聞こえた。
罠が無いかと警戒しつつ、そーっとドアを開ける。
すると、ドアの先は段差があり目の前は大きな広場。
真ん中には、太陽光に似た、暖かくて大きな白い光源。
広場にはジャングルジムにブランコ、砂場に滑り台。
子供が遊ぶには十分すぎるくらいのサッカーコートにバスケコートなど、なんでもある。
そこでは小学生くらいの男の子たち数人が、夢中でボール遊びをしていた。
活発そうな女の子たちは、水道近くで水風船や、なわとびで遊んでいる。
通路の脇は綺麗な人工芝。他にも小学生にも満たない女の子たちは
可愛らしいシートを敷き、その上で人形で遊びや、集まって絵本を読んでいる子などもいた。
そう、ここはまるで、子供の楽園のような場所だった。
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