第44話 次の対戦相手

エレベーターのドアが開き、部屋に入るとエレベーターはロックされ退路が断たれる。

別に逃げる気など更々無いが。

先ほどと同じくらい大きい部屋。天井の大きなシャッターが開く。

また戦わせる気満々だ。どうせまたデカブツが出てくるのだろう。

しかし、その予想は外れた。

ふわふわとなにかが落ちてくる。

それは朔桜より背丈の小さく、華奢な蒼白色の髪の少女。

素肌に薄いカーテンのような布をぐるぐるに巻いているだけの姿。

なんて服装してやがるんだ。


「こいつがお前らがさらったガキか?」


俺の言葉に反応し、スピーカーから問いの返事。


「いひひ、違うよ。今目の前にいるのは、クラブの次の対戦相手さ」


対戦相手? このガキが? 見たところエナの流れを感じない。

特殊な武器や宝具も持っている様子は無い。

丸腰で俺の相手とは舐められたものだな。


「このガキが本当は攫われたガキで、対戦相手と称して俺に殺させるって腹か?」


俺は男の言葉を疑う。


「いやいや、本当に違うよ。その子は、こちらが用意した最強の子供さ。

不安なら連れの娘に聞いてみるといい」


ブツンとノイズが入った後、スピーカーに音声が入る。


「ロードっ!」


朔桜の声だ。


「無事か?」


「大丈夫……でも、ごめん! 捕まっちゃった……」


黒鏡こっきょうは持ってるか?」


「黒鏡もペンダントも取られちゃった……」


「ちっ、念入りなこったな……。

蒼白髪の身体中にカーテンを巻いたダサい服装のガキはお前の知り合いか?」


「蒼白の髪でダサい服装の娘……?

私、その娘に捕まったの! ここの管理者らしいから気をつけて!」


「管理者?」


その言葉で完全に無警戒だった身を引き締め、少し警戒する。


「やっと警戒したね? あの子の言葉、信じるんだ?」


雑音でかき消されてしまいそうな小さな鈴のような声。


「ロード聞いて! その子はじん――」


朔桜が何か言いかけたところで音声は途絶えた。


「おっと、ネタバレはつまらない!

さあ、私の超最高傑作ノアを相手に、雷の王族ロード・フォン・ディオスが

どこまで対抗できるのか見せてくれ! いひひひひ」


今の言葉に引っかかる節があったがそれは後回しだ。

随分と楽しんでいる様子。さっきのカニより自身ありって事か。

とりあえずこいつを早く倒して、捕まってるガキを拾ったらこんな所とはおさらばだ。


「死んでも文句言うなよ?」


「ん? とりあえず、本気できて?」


「いい度胸だ。フレイレイド!」


少女に手をかざし、火炎の小弾を放つも、フラリと体を傾け身軽にかわした。

かなり身軽に動けるようだ。動体視力はそこそこ高いみたいだな。

ノアは地面で燃える火を指先ですくい上げ、少し火を見つめた後、息を吹いて消す。


「もしかして、なめてる?」


口調は変わらないが、表情が少しだけ険しくなった。


「じゃあ、これでどうだ?」


瞬時に爆雷を放ったが、その場で高々とジャンプして避け、クルクルと二回転して着地。

着地と同時に放った紫雷を放つと、それは完全にはかわしきれなかったようで

肌を露出した左腕を掠めた。


「火は熱いし、雷は痛い……でも覚えた。まねっこ、するね?」


体に巻きつけた布を緩め、視界が遮られた瞬間、体格も、見た目も一瞬で変化。

その姿は鏡写しのように完璧なロード・フォン・ディオス。

俺と全く同じ姿だった。


「なんだ!?」


突然の事に僅かに動揺してしまった。その隙に紛い物は紫雷を放つ。

同じ姿になっただけでなく、同じ術まで使ってきやがった。

動揺していた事で反射速度が鈍り、紫雷が左肩を掠めた。

俺の身体は雷術と風術の耐性は高いはず。

だが、左肩の皮が引き裂かれて酸でもかけられた様な、尋常でない痛みを感じる。


「っ! なんだ、この痛みは……」


肩に手を当て、傷口を見るが、それほど痛む様な外傷ではなかった。

紫雷は雷の中級術だ。こんな気が飛ぶような痛みがあるはずがない。

術を当てた後、ノアは瞬時に少女の姿に戻る。


「ん? ノアの痛み、そのまま返しただけだよ?」


「痛みをそのまま返しただと?」


「うん。すごく痛かったよ?」


なんだこいつは。得体が知れない。

とにかくこれ以上の攻撃を喰らうのは危険だと判断し、大きく距離を取った。

相手の様子を窺って冷静に分析していると、ノアは澄ました顔で首を傾げる。


「ノアを警戒して分析している? うん、正しい判断だと思うよ?」


完全に格下に見られているようだ。

ガキの癖に上から目線が気に入らない。いいだろう、やってやる。

仮説だが、おそらく奴は相手の姿に変化し、自分が受けた、あるいは

見た術を何倍かにして返す能力があるのだろう。

ならばこれ以上魔術を覚えさせてやる必要はない。

他にも戦う術はある。

遠距離魔術がダメなら肉弾戦だ。


雷狂らいきょう!」


自分の体に電気を通し、全身体能力を向上させる。

雷狂を見せてもノアは真似をする様子はない。

という事は自分自身が受けた魔術しか返せない可能性が高い。

足をぐっと踏み込み、勢い良く地を蹴った。

そして一瞬でノアの目前まで迫り、全力の拳を振るう。

しかし、ノアは表情一つ変える事無くそれを軽々とかわす。

電気で強化された拳は、ただの人間の目では捉えきれないほどの別次元の早さ。

だが、その動きを完全に見透かし、全ての拳を確実に避けている。

“十二貴族”である魔人ステン・マイスローズでもここまで完璧に避けるのは無理だろう。

間違いなくこいつの身体能力は十二貴族を凌駕りょうがしている。

肉弾戦も通用しないと分かれば、これ以上雷狂を使い続けるのは魔力の無駄だ。

朔桜が捕らえられた今、魔力を回復する手段は無い。

これ以上無駄な魔力を消費する訳にはいかない。

一度退いて様子を見る方が良いと判断して後方に下がった時、何かに腰を掴まれた。


「しっかり捕まえててね? ノア?」


「任せて? ノア?」


会話しているのは全く同じ声。

振り返ると後ろにもノアがおり、腰と足にピッタリとしがみ付いている。


「邪魔だ!」


風衝で吹き飛ばそうとした瞬間、しがみ付いたノアは鉄の塊へと変化する。


「くそが!」


鉄の塊に手を当て、爆雷で消し飛ばそうしたその刹那

腹部に鋭い大バサミが突き刺さった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る