第39話 機械兵 強襲
前回、児童養護施設に行ってから一週間。
私は前日に買っておいた、子供たちへのお土産を持って、朝からバスに乗った。
中身は一個ずつ包装されたマドレーヌ。
駅近に新しく出来たお土産店で買ったもの。
最近美味しいと有名らしく、お値段は少しお高めなのだが、みんなは喜んでくれだろうか。
そんな想像をしながら、施設の前のバス停で降りる。
すると子供たちの大きな声が聞こえた。
しかし、それはいつも聞こえてくる元気な声ではない。叫び声や泣き声だ。
嫌な気配を感じ、小走りで施設の門前まで急ぎ、門越しに中を覗き込む。
するといつもみんなと遊んでいた運動場は酷くに荒れていた。
子供たちが植えた花壇の花はぐちゃぐちゃに踏み荒らされていて
囲いのレンガが砕けて中の土が散らばっている。
門はしっかりと施錠されており、中に入れない。
呼び鈴を何度押しても、何度も呼びかけても誰も出てくる気配はなく
誰一人として人の姿が見えない。
私は荷物を地面に置いて門と自分の身長を比べる。
「門は身長より少し高いくらいっと……」
高さを見て門から距離を取る。
力の加減を調整。そして一気に門へ向かって走った。
壁を二回蹴り、背面飛びで門を跳び越える。
着地の衝撃を両足をバネのようにしてしゃがみ込み、両手も使って、しっかりと四点着地。
そのまま施設内に駆け込む。外装も壊されている。これはただ事ではない。
迷わず中に入ると、黒い液体が飛び散っている。それを見た瞬間、嫌な光景が頭をよぎる。
そして施設の裏から爆発音と子供たちの悲鳴が聞こえた。
血相を変え音の場所に向かうと、そこには怯える子供たちとロードの姿があった。
「なんて顔してんだ」
その一言で私は正気を取り戻した。
「どうしたの? なにがあったの? どうしてロードがいるの?」
私の頭は聞きたい事だらけで、次から次へと疑問しか浮ばない。
興奮気味の私の頭にロードはポンと手を乗せた。
「落ち着け。とりあえずお前は無事だな?」
「うん」
「まずは、状況整理だ。死者、行方不明者はいないか確認しろ」
私と詩織さんは、ロードの言う通り子供たちの人数を数える。
「三十二、三十三。一人足りないわ!」
一人ずつの顔と名簿を見ながら詩織さんが確認していく。
すると一人の女の子が声を上げる。
「先生! みうちゃんがいないよぉ?」
それを聞いて周囲を確認する。
本当だ、あのおとなしい茶髪の少女
私と詩織さんは大きな声で呼びかけたり、施設の中をくまなく探してみたが
みうちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。
「なんてこと……」
詩織さんは顔を青ざめ
「一体……何があったの?」
私はロードに何があったのか今までの経緯の説明を求めた。
私が施設に出発した後、私が『黒鏡』を家に忘れている事に気が付いたロードは
私の行動範囲として教えてあった施設まで、飛翔で先回りして待っていたらしい。
すると突如、空からロボットが五機ほど飛んできて、突然施設を襲いだし、子供たちを追い始めた。
それを目障りに感じたロードは、ロボット一機を雷撃で消し飛ばした。
近くの二機のロボットは、目標をロードに変え、襲いかかってきたらしい。
襲ってきた二機をあっけなく破壊すると、一機のロボは破壊された三機のロボの破片を
大きなバキュームで吸い込み回収し、足早に逃げたらしい。
逃げた一機は無視して、最後に子供だけをひたすら追っていたロボを粉砕した。
そして今に至るらしい。
私が見た黒い液体はロボットの燃料で、幸運にも誰も怪我はしていないみたいだ。
もし、ロードがいなかったと思うとゾっとする。
みうちゃんはおそらく、逃げた一機のロボットに
あまりにもありえない、映画の中のような、現実離れした状況に詩織さんも動揺している。
次第に子供たちの間にも不安の声が広がっていく。
私は場の沈んだ空気を破るため、みんなの前で高らかに宣言した。
「大丈夫! お姉ちゃんたちが絶対に、みうちゃんを探してくるから!」
胸をドンと叩くと、子供たちから歓声が上がる。
「そうか。まあ、頑張れ。黒鏡は届けたからな。今度は忘れるなよ」
ロードは私に背を向けながら、適当に手を振り立ち去ろうとする。
「まって、まって! ロードありきの行動進行なんだけどっ!」
「俺は便利屋じゃねーぞ」
「探すだけ! 探すだけでいいから! ねっ?」
精一杯可愛らしくお願いしてみる。
「断る」
ロードにそんなの通用するわけもなく冷たくあしらわれた。
「むむむ……」
「厄介事に自ら首を突っ込むなと約束したはずだ。忘れたか?」
「忘れてないけど……」
ロードの言う私に課せられたのは三つの約束とはこうだ。
・宝具の存在を秘密にすること。
・自ら危険に首を突っ込まないことだ。
・他の人間にロードの存在を明かさないこと。
そしてロードに課したのは
・私の母を探し出すこと。
・私の命と宝具【
・人間界のルールを守ることだ。
お互いにこれを守りながら生活している。
だけど、私はみうちゃんを見捨てるなんて事は出来ない。
ロードも譲らずお互い意見は対立し、話は平行線だ。
その途中、痺れを切らした詩織さんが話を遮る。
「あの~お話の途中で悪いんだけど、ところでこちらの方はどなた? 朔桜ちゃんのお知り合い?」
「すいません! 紹介してなかったですね。彼はロード。ロード・フォン・ディオス」
「ロードくん? 外国人かな? 先にお礼をさせて。
みんなを、この子たちを助けてくれて、本当にありがとう」
詩織さんは深々と頭を下げる。
「ああ、別に構わない」
「タメ語! めっ!」
私はすぐに注意したが、ロードはこっちに目を合わせない。
完全に機嫌を損ねてしまったようだ。
「訳あって、今私の家にホームステイしていて……その……」
バツが悪そうに話しているのを詩織さんは察してくれた。
「もしかして、例のペット?」
「あっ! そうです!」
私達の間で会話が成立した。
「ペット? なんの話だ?」
ロードは話の脈絡について来れていない。
知らないほうがいい。知ったらきっと怒るし更にややこしくなってしまう。
「どうしよう……。警察になんて通報すればいいの?」
詩織さんは異常な事態に困惑している。
「とにかく私達が必ず探し出します! なので、警察に連絡するのは少し待ってください!」
「でも……」
「もしも今日中に私
私は深々と頭を下げてお願いする。
詩織さんは少し悩んだ後、ひとりでに頷いた。
「……信じていいのね?」
「ちょっと待て。私たちってなんだよ」
「はい」
ロードの言葉を無視して一方的に話を進める。
「じゃあ、お二人ともお願いします。みうちゃんを探してください」
「任せてください!」
「くそ……この女……」
よし! なんだかんだでロードが押しに弱いのを私は知っている。
同じ屋根の下で暮らしていれば分かってくるものだ。
こうして、私はなし崩しにロードを協力させる事に成功したのだった。
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