第38話 魔人とカレーと定例会
「ただいま~」
両手に食材を抱え、玄関の鍵を開けると
リビングの電気は付いているが、返事はない。
「ロード~いる~?」
リビングを覗き込むと
舞台衣装のような派手な黒い衣服を着た少年が
高価な金属のように綺麗な黄金の目で、食い入るようにテレビを見ていた。
「いるなら返事してよ~」
「ああ、いる」
雑な返事。全くこっちの話を聞いていない時の生返事だ。
「今日のご飯無しでも大丈夫?」
「ああ」
「はーい、じゃあロードだけ無しね」
そして少しの間。
「……待て。今、なんて言ったんだ」
「え~? ご飯無しでもいいかって聞いた」
「待て、いる」
「え~だってロード人の話聞いてないんだもん!」
「聞いてるだろ」
「じゃあ、ただいまって聞いてた?」
「ああ」
「じゃあいるなら返事してよは?」
「聞いてた」
「じゃあ今日の夕食のメニューは?」
「………」
黒紫の無造作に跳ねた髪を捻り、言葉を詰まらせる。
「あれ? 聞いてないの?」
「聞いてた、あれだろ。あれ、ハンバーグ」
「ぶっぶー正解は~~、そんな事言ってないでした~~!」
ロードやっとこっちを向いて鋭い視線を向けてくる。
「おい、はっ倒すぞ」
「話聞いてない方が悪いもん」
「だから、今聞いてるだろ」
「ちゃんと返事してほしいもん」
「わかったって。おかえり、おかえり」
「うん! ただいま!」
こんな会話が並木家の日常会話なのである。
ニュースをBGMに夕食の配膳をする最中
詩織さんが言っていた最近、近所で起きた誘拐のニュースがやっていた。
突然、息子が消えた。娘が帰って来ない。などの行方不明事件が、藤沢町で多発しているらしい。
そして、その消えているのは全て十才満たないほどの子供のようだ。
まだ真相も犯人の姿も、今だ見えないという不完全な締め方で、冷凍食品のCMが流れ出した。
「まだか? 腹減ったんだが」
「あっ! ごめん! 待っててね、今用意するから」
TVに夢中になり手を止めているのを見て、ロードは催促し、私はせっせと配膳を済ませ席に着く。
今日の夕食は八百屋さんで買った沢山の新鮮な野菜と
スーパーで買った特売の牛肉をじっくりと煮込んだ朔桜特製カレーだ。
匂いからもう美味しく出来たと確信している。
「いただきます」
二人でカレーを食べながらロードに話を振る。
「そういえば、さっきはなんであんなにも真剣にテレビ見てたの?」
「ああ、別に。テレビの中に魔人が映ってたってだけだ」
その話を聞いて私は器官にご飯を詰まらせ、
「げほっ……げほっ…魔人!? それまずいんじゃ……」
水を飲み喉の調子を整えた。
私は魔人の強さを知っている。人間と魔人とでは圧倒的にスペックが違う。
話によると一番弱い魔人でも本気を出せば、車くらいはひっくり返せるらしい。
この目の前にいるロードや、親友の
以前戦ったステン・マイスローズの様な悪い魔人がまだ人間界にいるのかが気になっていた。
「俺がテレビで見たのは、魔力の全然無い魔人だった。
人間に擬態し、楽しそうに人間と会話していたが。
不安要素があるのなら今すぐ殺してくるが、どうする?」
その言葉を聞いて私はふっと心を撫で下ろした。
「ううん、大丈夫。擬態して人と話していたなら平気」
「何故それだけで安心できる?」
「明も同じでしょ? 人として溶け込んで、今は悪い事しないで私達と人間界で暮らしている。
悪い事してない魔人はそっとしておいてあげよう」
「お前がそれでいいならいいが」
「ありがとね」
私がお礼を言うとすぐに目を伏せてしまい、黙々とカレーを食べだす。
「そっか~人間界に他にも魔人っていたんだね」
「珍しくはある。
「“人魔戦争”……」
「知ってるだろ?」
「まあ、聞いた事ぐらいは。でも二百年くらい前の
「御伽話なんかじゃない。お前、人間だろ? 自分の世界の歴史を学べ、歴史を」
なぜかロードに説教されてしまった。
「ううっ…。で、で! その“人魔戦争”の生き残りがなんでいるの?」
「戦いが終結した流れでこっちに居づいたんだろうよ。
こっちで言われる未確認生命体とかの大体が、残った魔物や魔獣だ。
魔人は変種じゃない限り、見た目は
なるほど。私の中で世界の謎が一つ解明された。
こっちの世界にも魔人は存在し、魔物や魔獣も存在する。
上手く言葉に表せないが、なんだが不思議な感じだ。
今私は、こうして魔人と一緒にカレーを食べているのだから。
「で、お前は今日なにしてたんだ?」
「私? 私はね――――」
こうして私達は毎晩の夕食定例会を続けたのだった。
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