第36話 取り戻した日常

雷の王族魔人ロード・フォン・ディオスによって、

地の“十二貴族じゅうにきぞく”魔人ステン・マイスローズは倒された。

倒したステンのエナを全て吸収したロードはステンが持っていた分の魔力値を吸収。

その力を遥かに上昇させた。

そして、ステンの所有していた魔装『黒帽子くろぼうし

宝具【爪隠つめかくし】も獲得。

ロードいわく、戦利品は奪って当然なのだそうだ。

役目を終えた“八雷神はちらいじん”クリムゾンは雷光となり天にかえっていった。

ステンを倒した後、すぐにてぃなの元へ戻り様子を見に行ったが、静かな寝息をたてて寝ていた。

命に別状は無く、本当に良かったと思う。

とりあえず、うちに連れて帰り、私のベッドに寝かせておいた。

私とロードはお腹ペコペコで帰宅。

もう時間は深夜を回っている。

こんな時間に食べたら太るかな? 

でも今日は一生分のカロリー消費したから大丈夫だよね。

自分にそう言い聞かせて炊飯器から白米を山盛りで盛った。

冷蔵庫に冷やしていた二つのハンバーグを温める。

私は健気なのでなんだかんだ一人で食べずに待っていたのだ。

欲を言えば、作りたての温かいのを食べてほしかったけど……。

まあ、御飯は多くで食べたほうが美味しいし。

多くって言っても食べるのは二人なんだけどね。


「美味しい!」


「確かに、美味いな」


一口目で私たちの声は重なった。

我ながらとても美味しく出来ていた。

ロードもいつもよりも満足しているらしい。

空腹は最大の調味料という言葉は本当みたいだ。

味が普段よりもハッキリと分かる。

疲れているからだろうか。肉汁が口から全身に染み渡る。

なんだかんだで二人とも綺麗に完食。


「ごちそうさまでした!」


「ごちそうさま」


ロードはバツが悪そうに目が泳いでいる。

電話の言葉を思い出したらしい。

ここで問い詰めても良かったけど、そんないじわるはしない。

そんな気力もない。ご飯を食べたら疲労がどっと押し寄せてきた。


「疲れたから寝るね。ロード、おやすみ」


「あぁ、お疲れ」


いつもよりも素直なロードをよそに、寝る支度をして自室に戻る。

明がベッドでぐっすり寝ていたので、冬用の毛布を布団代わりにして寝る事にしたが、寝心地は△。

だけど、身体、精神ともに疲弊していたのだろう。

その夜は泥のように眠った。

翌日は運よく土曜日だったので学校は休み。

起きた時にはロードの姿は見えなかったけど、疲れからか

私は朝から夜までずっと寝ていた。

寝すぎて頭が痛い。


明が目覚めたのは日曜日の夜。

起きてすぐに食べ物と水を要求し、三人前の食事をぺロリと平らげた。元気な様子で安心する。

食べ終わってすぐに気を失ってからの経緯を説明したが、割とあっさり受け入れてくれた。

ロードがとどめを譲ると言っていたが、決着をつけてしまった事を責めるつもりはないらしい。

状況が状況だったし、しょうがなかったと理解してくれた。

でも、ロードと一緒に住んでいる事を知ると顔を真っ赤にして怒っていたが

なんとかなだめて、押し出す様に自宅へ帰ってもらうことにした。


月曜日、明は普通に登校してきた。

ステンが消えた今はかせが無くなり、自由に出来ると喜んでいたが

今度はステンの金銭面の援助が無くなり、バイトしないといけなくなりなげいていた。

学校が終わったら早速バイト探しに行くのだそうだ。

ステンの消滅により宝具を奪う必要も無くなり、明は宝具を持つ事を許可してくれた。

これで今まで通り、いや、お互いを深く知った今ならば、今まで以上に仲の良い関係になれるだろう。

それから数日後、しばらく姿が見えなかったロードが帰ってきた。

落石で埋もれてしまった魔界への門を、なんとか探せないかと試行錯誤していたらしく

もしも掘り起こす事ができれば、魔界の門の結界をなぜか通る事ができるロードは

魔界と人間界を自由行き来できるかも知れないと躍起になっていた。

何故、私とロードが門の結界に入れたのかは今だ謎のままだ。

そして私の宝具【エレクトロ電池チャージャー】。

ステンとの戦いで、魔力をほとんど使い果たしてしまい一時は輝きを失ってしまったが

少しずつではあるが、大気中のエナを吸収して溜まっているようだ。

以前ほど自然に貯めるには時間が莫大にかかるらしいけど

ロードが毎日少しずつ大気から吸収できる一日分の魔力を貯蓄してくれるので

いつ怪我をしてもこの宝具があれば、大きな怪我も治す事ができる。


公園に倒れたロードを拾ってから衝撃的な出来事の連続だった。

魔界、魔人、魔力に宝具。

日常では使いそうにない漫画やアニメで聞く単語を一生分聞いた気がする。

数週間経った今は、以前と同じ日常に戻りつつある。

この街の全員の命の危機が迫っていた事などいざ知らず、先生が来る前の教室は今日も騒がしい。

笑顔で話す同級生たちの顔を眺める。

これがロードが守ってくれた景色。保たれた平和の日常。

先生が来た途端、皆は静まり各々の席に着く。

あ行から順に始まる点呼。

お母さんが見つかって、こんな平穏な生活がずっと続けばいいな、なんて、

な行の順番がくるまで、教室の窓から外を眺める並木朔桜 十六歳なのでした。

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