第31話 逆転の一撃
一蹴りでステンの
命の恩人であるミストルティを侮辱され
景観が悪かったという勝手な都合で故郷を焼き払われた。
そんな怒りに身を任せてか、やたらめったら八つ脚を振り回すティナ。
「お前はっ!!! 殺すっ!!!!!!!!」
精度の悪い乱雑な攻撃。
そんなものは“
「ふん、どうしました? その程度で私は殺せませんよっ!」
ステンは攻撃を完全に見切りかわし、すぐさま繰り出された手刀がティナの肩に直撃。
鈍い音をたて地面に叩き付けられたティナは苦しそうに
「見苦しい。土地槍―
ティナの下から突き出た土槍が周囲を埋め尽くす。
「しぶとい奴だ」
ステンが小さく呟くと、槍は一気に薙ぎ払われる。
そこには身体中から血を流し、左肩を押さえるティナの姿があった。
朔桜が冷静さを失ったティナの名を何度も呼ぶ。
だが、一度たりとも朔桜を見ない。
まるで朔桜声が耳に入っておらず、ステンを殺す事だけに意識をもっていかれていた。
ボロボロの身体で何度もステンに飛び掛り、吹き飛ばされる。
「明! 明ってば!! しっかりして!!」
さっきのステンの言葉で我を失ってしまっている。
今の彼女は復讐心でしかステンに向かって行っていない。
「何度来ようと無駄だと、なぜ分からない」
呆れたように言葉を放った後、ティナの頭上に巨大な岩の塊が落ちた。
耳が壊れる様な大きな音をたて、天井まで土埃が舞う。
視界が晴れるとティナの姿は何処にも無かった。
「けほっ! けほっ! 明っ!!」
朔桜が咳き込みながら何度か呼びかけても返事は無い。
「死んだフリか? まだ生きているのだろう? 出て来い、ティナ」
その呼びかけに応えるように地面から大きな二本の岩の手が現れる。
「これはっ――――!」
それを見た瞬間、ステンは先ほどまでの余裕を無くしていた。
八つ脚の捕食者で天井に張り付き、岩陰に隠れて魔力を最大に貯めていたティナが地上に降り立つ。
そして、ステンをしっかりと見据えた。
「私は最初から冷静よ。この日のために何年も何年も我慢し続けてきたのだから!」
ステンを油断させるために冷静さを失ったフリをしていた。
わざとダメージを受け逆にステンの油断を誘った。
全てはこの時のために。
「村のみんなとミストルティの
両手を組み術を唱える。
「岩弾砲―
岩の手はステンの左右から磁石が引き寄せられた様に一気にステンを挟み込んだ。
ステンも抵抗するが少しずつ押し潰されてゆく。
「くっ……」
「終わりよ! ステン・マイスローズ!!!」
魔力を更に強め、ティナはこの一撃に全てを
「いっけぇーーー!!!!!!!!!!!」
叫び声と同時に、二つの大きな手はゴンと大きな音をたて
一部の隙間も無く完全にくっついた。
巨大な手は
そして、辺りは静寂に包まれた。
「勝った……。ステンを……私一人で倒せた……」
実感が無いように呟き、その場に膝からガクンと落ちて座り込む。
「お母さん、やったよ。お母さんとみんなの仇をこの手で討てたよ。
ミストルティ…見てる?
もうこれで責任なんて感じなくていいんだよ。だからみんな……安らかに眠ってください……」
ティナの目からは大粒の涙が零れる。
そして肩の荷が降り、ティナの空気感もほんの少しだけ変わった。
朔桜は正直な話、復讐なんてと思うところもあったが、それを口に出す事は決して無かった。
部外者が口を挟むべきではなく、これは当事者達が決める事。
大切な人達を奪われた苦しみは、その人本人しか理解することはできないのだから。
復讐で救われる魂もあると、朔桜はその光景を目にして直に感じた。
それから少し経ち、泣き止んだティナは左肩を押さえながら
ユラユラと覚束ない足取りで朔桜の側に歩み寄る。
「ごめん朔桜……。ペンダントごとステンを潰しちゃった……」
「あっ……すっかり忘れてた……」
「本当にごめんなさい。朔桜のお母さんが見つかるまで私は一生を懸けて手伝うから」
何度も深く頭を下げてくる。
「仕方ないよ、明がステンを倒してくれなきゃ
私もこの中で死ぬまで閉じ込められていたかもしれないし。
私は……いいんだけど……きっと、ロードは怒るよ……」
朔桜の脳内には怒り散らかしているロードの姿が目に浮かぶ。
「あいつにもちゃんと謝るわ。望むなら別の宝具を探してあげてもいい。
朔桜のお母さんを探した後でね。なんせ、私はもう……自由なんだから……」
心の靄が晴れたような清々しい笑顔を見せるティナ。
その笑顔は未来への希望に満ちていた。
「あの……そろそろ私を引っこ抜いてほしいいんだけど……」
地面に埋まったままの朔桜は両手を伸ばしティナに助けを
「あっ! ごめんっ! 今そこから出してあげるから」
地面に右手を着き、朔桜の足元を液状化させた。
その時だった――――。
突如、しゃがんでいたティナの腹部を地面から三本の槍が突き出す。
その槍は完全にティナの腹部から背中までを貫いていた。
ティナが憎悪に満ちた顔で振り向くと
そこには余裕の笑みを浮かべるステン・マイスローズの姿があった。
「ステン……」
ティナは八つ脚の捕食者でなんとか三本の槍を叩き折ったが、そのままその場に倒れ込む。
「お前に自由などない。あるのは……絶望だけだ」
「明ぁ!!!!!」
朔桜は急いで沼から脱出し、ティナの身を抱き寄せた。
腹部の血が止まらず、徐々に身体の熱が逃げてゆくのが分かる。
泣きながら何度も何度も呼びかける。
するとティナの手がゆっくり朔桜の頬に触れた。
「朔桜……あなたは逃げて……」
その言葉に力はなく、意識を保っているのが精一杯なのだろう。
身体は徐々にエナの光になりつつある。
そんな彼女を置いて逃げられる訳がない。
朔桜はティナをそっと地面に寝かせ、堂々とステンの前に立ち塞がった。
「……なんの冗談ですか?」
「あなたから雷電池を取り返して、明を救う!!」
完全に舐めきった魔人を相手に一人の無力な少女が戦いを挑む。
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