第14話 絶対剣守

セルヴィスには生まれつき特殊な能力があった。それは《絶対剣守(ぜったいけんしゅ)》

剣相手なら何百人が一斉に剣で斬り込んでも

物理的に防ぐのが不可能でも身体が勝手に全てを弾き、防ぐ。

剣同士で戦う場合なら絶対に負ける事はなく、勝率は百パーセント。無敵なのだ。

先ほどまで剣を使っていたロードには圧倒的に有利だった。

剣術で言っても明らかにセルヴィスの方が上。

そのままロードが一度でも攻撃に転じ斬り込んでいたら、逆に斬り殺されていたであろう。

強い剣術がありながらも、隙だらけだったのもそのせいだ。

わざと隙を見せ切り込んできたところを切り込めば勝てる。

なんせ防ぐ必要がないのだから。ただ相手を斬ることだけ考えていれば勝てるのだから。

そんな絶対防御術を持つセルヴィスの能力をロードはあっさりと看破かんぱした。

それに動揺しない訳がない。今まで一度もこの能力を見破ったものはいなかった。その前に倒していたから。

だは、数回剣を交え、数回言葉を交わしただけのロードにいとも簡単に見破られた。

セルヴィスはそれがとても腹立たしく、心の底を見透かされた気分になっていた。

俯きながらいろんな感情を整理し、やっと顔を上げた。


「いやぁ~お前すごいさぁ~よく見破った!」


予想外にも返ってきたのは讃賞さんしょうの言葉。


「俺の能力ばらしちまうと《絶対剣守》って能力なんさぁ。

剣の攻撃ならどんなものでも防げる最強の剣術」


自ら自身の能力のネタをばらす。もう隠しておく理由は無い。

それを知りロードは不敵な笑みをこぼす。

先ほど投げた剣を静かに拾い上げ、木に何度か剣をぶつけ土埃を払う。

そして、あろうことか、セルヴィスに向かい剣を構えた。


「お前……今の話聞いてなかったさぁ?」


セルヴィスはわざわざ自身の能力の説明をしたにも関わらず

剣を構えるロードに呆れつつ、少し苛立っている様子だ。


「いいから剣を構えろよ、セルヴィス」


にやりと笑うロードの顔を見たセルヴィスは怒りに満ちた表情で

先ほど地に刺した剣を片手で抜き上げる。


「ああ、わかったさぁ。でももう手加減無しだ」


長剣『ロングノーズ』をしまい、再び構えるは五魔剣いつまけん骨断ほねたち』。

骨断はありとあらゆるものを一刀両断できる。

あの魔界最硬のアクト石でさえ斬ったと噂されるほどだ。

剣を風の魔術で強化しても、あの剣の一撃を受け止める事はできない。

千剣蛇から拾ったなまくらの剣なんて爪楊枝を折るレベルだろう。

ロードは残り中級一発小級五発ほどしか術を使えない。故に慎重に術を選ぶ必要がある。


剣相手じゃ絶対負けない能力絶対剣守を持つ本気の腕利き魔剣使いセルヴィス。

ロードはこれで六連戦目。

疲労困憊ひろうこんぱい、魔力も残りわずかな状態だ。

しかし、セルヴィスが自らタネ明かしした事で《絶対剣守》に抜け穴を感じた。

もしも、それが通用するなら剣でも奴を仕留めることができる。

むしろ魔力の少ない今なら、魔法のみで戦うよりも

剣で相手を油断させる事によってその隙を突いて倒す事が出来る。


「さあ、終わりにするさぁ!!!!」


セルヴィスは大きな掛け声とともにロードに突撃。

大剣を大きく振り上げ真上から叩き降ろす。

瞬時に避けたもののその破壊力は絶大。

爆弾が爆発したかの様に一瞬で大地をえぐり取った。

あんなのに触れたら最後。真っ二つどころか身体が弾け飛ぶだろう。

ロードは剣に風の魔術で強化をかける。


「ほら、剣を取ったからには自信があるんじゃないのかさぁ!」


大剣が短剣のように軽々と乱舞する中、それをすべて強化した風の剣で

攻撃を受け止めず、受け流す。

残りの魔力的にもうセルヴィスの攻撃を防げるほどの魔力は残っていない。

ロードは勝負を決めるしかないと仕掛ける。


「ああ、もう終わらせよう」


一度セルヴィスから距離を取り

右手の手に剣を握り、黒鴉の衣に左手を入れて二度魔術を唱えた。

衣から手を出し、その手でなにかを握ったままセルヴィスに突っ込む。

右の剣で大剣の一撃受け流しつつ、左手を相手に振り降ろす。

キーンと剣を弾く音が聞こえ、ロードの左手は弾かれ、何かが地面に落ちた。

それをみたセルヴィスはやれやれとした表情を浮かべた。


「見えようが見えなかろうが剣は剣。俺の能力の前じゃ効かないさぁ」


ロードは左手を衣に入れた時、剣にクリアエアという空気で物体を透過させる魔術を使い

剣を見えなくしていた。

剣を弾くとはいえ、セルヴィス自身が認識できないものを弾くことができるのか試したのだ。

しかしそれは失敗に終わった。セルヴィスの目に映らずとも、能力によって剣の攻撃は全て防ぐようだ。

本気で斬りかかっていたら、カウンターで斬り伏せられていただろう。 


「ウィンダガー!」


後方に引きつつ無数のダガーを四方向から放つ。しかし、骨断の一振りであっけなくなぎ払われる。


「あぁ、見苦しい。見苦しい悪あがきさぁ……」


冷めたような口ぶりで呟き、苦虫を潰したような顔でこちらを睨む。


「ウィンレイド!」


四方に風のかまいたちが現れセルヴィスを囲む。

ロードが指を鳴らすとかまいたちが一斉に襲い掛かるがまたも軽々と骨断で蹴散らした。

下級の魔術を悪足搔きのように放つロードにセルヴィスは呆れかえっている。


「最後だ、セルヴィス」


間髪いれずにロードは左手を衣に入れ剣を取り出すと

両手で二剣を構えたまま一点に駆け出す。


その姿を見てセルヴィスはこれが最後だと悟る。

セルヴィスはロードの手の内をほとんど見透かしていた。

黒鴉の衣に手を入れた時、ロードは二度魔術を唱えていた。

ひとつは先ほどのクリアエア。そして、もうひとつは剣に見せかけた魔術の剣。

先ほどのダガーは魔術で造った刃のある武器が《絶対剣守》に通じるかを見極めるもの。

そして、かまいたちは目暗まし。

衣の中から魔術で作った“紛い物の剣”を抜き斬るつもりだろうと理解していた。

それならば左手に持つ剣ごと斬ればいいと。


「終わりさぁぁぁぁ!!!」


掛け声と共に勢いよく斬り込むセルヴィスは勝利を確信。

しかし、最後、最後の一手だけを読み間違えた。


「終わりはお前だ」


ロードの言葉が放たれると、セルヴィスの骨断を持つ右の腕が血を撒きながら空へ舞った。

それは一瞬の出来事。考えしない出来事。

その事にセルヴィスは痛みなど忘れ、何が起きたかを瞬時に考え、理解した。

セルヴィスが斬り込まれたのは、ロードが右手に持っていた剣。

その手には普通の剣が握られてると思い込んでいた。

しかし、ウィンレイドを唱えた時、衣の中から魔術で造った剣を既に右手に持ち替えていた。

つまり、右手に持っていたのが風造で造った魔術の剣。

そして、衣から後で取り出したのが普通の剣。

少し考えれば持ち替えている可能性も考え、慎重に追い詰めて倒せたかもしれない。

しかし、その可能性をすぐさま攻撃を仕掛ける事により排除した。

あと一歩、その一歩を考えさせる時間を与えなかった。

その一歩の可能性を摘み取った結果がこれだ。


「こりゃ相手が一枚上手さぁ。でも……」


「まだ左手があるさぁ!!」


左手で左の腰に備えてある剣ロングノーズを手に取ろうとする。


だが、ロードはそこまで読んでいた。


「これでぴったり空っ欠だ。もってけこれが俺の最後の魔力だ」


「ウィンレイサー!!」


セルヴィスがロングノーズを手に取る寸前。

左手の剣を強化し、縦一閃で斬り左腕を落とし、

横一閃でセルヴィスを斬った――――。


両腕を失ったセルヴィスは抵抗する様子もなく

静かな森の中でじっと満点の星空と輝く黄色い月を眺めていた。


「まさか《絶対剣守》を持つ俺が剣でやられるとは夢にも思わんかったさぁ」


笑いながらも少し悲しげに呟く。


「後一手があればお前の勝ちだったかもしれない。日頃の行いが悪かったんだな」


近くの岩に腰掛けロードも同じ空を見つめる。


「確かに行いは悪かったさぁ。

盗んで、殺して、遊んで。ろくな人生じゃなかったさぁ。

産まれてすぐ捨てられ孤児として育って、孤児院も潰され、路頭に迷い

盗んでは殴られ、盗んでは蹴られ……あのままじゃすぐに死んでたさぁ」


「それでステンに拾われたのか」


「ああ、でも俺は魔術の素質も無く、魔力も皆無でなんにも出来ない俺に剣を与えてくれたさぁ。

それからは毎日が楽しかった。俺は剣にのめり込み、色んな事を調べ勉強するうちに身に付いたのが《絶対剣守》。産まれてから何もない俺に魔神様が与えてくれた能力だと思ったさぁ。

それから俺は拾ってくれたステンに報いるため何でもしたさぁ。

でも恩返しもここで終わり。もうあいつの夢を傍で見ることはできないさぁ……」


「悪いが俺はステンを殺すぞ」


「ははっ、今の話を聞いても全くぶれないさぁ……ぐふっ! おえっ!」


セルヴィスは大量の血を吐き、視界がぼやけ、意識が朦朧もうろうとする。


「その魔剣……お前にやるさぁ……」


「言われなくても貰うつもりだったがな」


「どこまでも酷いやつさぁ……まあ扱いには気をつける事さぁ……。

意識を呑まれたが最後。もう戻って来れなくなるさぁ」


「呑まれたが最後……か……忠告されておく」


「最後に……頼みがあるんだが……」


「なんだ?」


「とどめはこれで刺して欲しいさぁ……」


セルヴィスは視線を向けたのは腰に備えた剣ロングノーズ。


「これはステンに、初めて貰った物さぁ。眠るならこれと一緒に……」


もう全く動けないほど弱った身体で頼むセルヴィスの意を

静かにロングノーズを引き抜いてそっと胸元に当てる。


「感謝……するさぁ……」


「ああ、あっちでは楽しく過ごせ、セルヴィス」


最後の言葉を聞いたロードは、静かにセルヴィスの胸にロングノーズを突き立てた。

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