第11話 戦闘前線

ロードの上級魔術の衝撃で周囲の砂埃が立ち込める。

クオルドネルをなんとか退ける事が出来たが、爆風のせいで視界が悪くなり

完全に倒せたかはどうかは確認出来ていない。

一息つく間もなく、無数の細いレーザーが四方八方からロードを襲う。

飛翔ひしょうで難なく回避しつつ、その場から距離を取る。

一度、木の陰に隠れて索敵を開始。

さっきの複数のレーザーはピュイティリオの一計いっけいだろう。

巨大な一閃だけでなく、細い数本のレーザーも使うこともできるらしい。

進行速度はクオルドネルと同速程度だった。

千剣蛇は大分遠くの方に少し見えた程度、まだ遠い。

ピュイティリオは近くにいるに違いない。

油断は禁物。一体一体確実に仕留めなけば、一つのミスが命取りになる。

煙が晴れ、先ほどいた場所を見るとピュイティリオだけが辺りを忙しなく警戒していた。

今の砂埃でロードを見失い、位置を把握できていないのだろう。

狙うなら今がチャンスと風造ふうそうで空気を固め弓と矢を作り出す。

狙撃しようと試みるが、大きなレーザーで開けた道から、

無数の剣がロード目掛け飛んできた。

剣の種類は様々。短剣に長剣。新しいのもあれば、古いのもある。

隠れていた木は鋭い剣で滅多刺しになり、根元からポッキリとヘシ折れた。

後数センチ顔を前に出していたら、頭を貫いていたと思うと身が引ける。

今の騒音でピュイティリオにも場所がバレた。

このやたらめったら飛んできた様々な剣は

千剣蛇が放ったものであろうことは名前から容易に予想が付く。

そんな事を考えてるうちに、すぐさま追撃の剣が放たれ、

剣の集中砲火に気づいたピュイティリオも細かいレーザーを放つ。


「ぁぶねっ!」


剣とレーザーで森の中はまさに地獄絵図だ。

ロードは風壁を張りつつ、木々を縫うようにジグザグに走る。

ある程度距離を取るとまたも巨大なレーザーが放たれ、森を吹き飛ばす。

これではらちが明かないとロードは一変。攻めに転じる。

そこらの木に刺さっていた刃毀はこぼれした日本刀のような細長い剣と

刃が曲線状に反り刃先が太くなっている海賊が使いそうな錆びたサーベルを引き抜いて手に取った。

拾った剣を両手で構えたままピュイティリオの方向に突っ込む。

その姿を捉え、レーザーを何発も打つがまるでロードには当たらない。

ロードは空を飛び、地を跳ね、身を回転し、まるで踊るようにレーザーを避けてゆく。

そのうえ、側面から飛んでくる剣は器用に弾き落としている。

その止まらない進撃におくしたのか、ピュイティリオはレーザーを打つのを止めて少し距離を取ろうとした。

だが、その隙をロードは見逃さない。

持っていた剣を右手、左手と腕がクロスするように時間差で投げつけた。

飛ばされた剣に気づいたピュイティリオは、素早く投げられた日本刀を

大げさに避けて剣は森の暗がりに消えた。

左手で投げたサーベルはピュイティリオのはるか手前で落ち、地面に刺さる。

七十メートルほどの距離を小鳥ほどの小さい敵に当てるのは至難の業だ。

そうそう上手く当たらない。

この距離は巨大レーザーの射程距離圏内。

あの威力を風壁で防ぎきれるかは怪しいところだ。

ピュイティリオは、攻撃を外し自分の射程に入っているロードを捕捉。

魔方陣を展開し、魔力を溜めて発光。巨大な一閃がロードに放たれる。

と思われた。

しかし、発光していた魔方陣は消滅し、ピュイティリオの体はドサリと地に落ちた。


「脇が甘い。俺の勝ちだ」


ピュイティリオの腹部には一本の剣が突き刺さっている。それは最初に投げた細長い剣。

ロードはわざとサーベルを手前に落し注目させ、奥に投げた剣を風で操り背後から一刺ししたのだ。

もともとは注意深い生物なのだろう。

しかし、射程範囲に居たことで勝ちに焦り、周囲の警戒を怠った。

それがピュイティリオの敗因だ。

ピュイティリオの体はみるみるうちに透けていき、エナとなり空に散っていく。

エナを吸収したいロードだが、いかんせんロード自身も警戒を怠ったら死ぬ寸前だ。

まだ敵は残っている。

さっきから剣を飛ばしちょっかいをかけてくる千剣蛇。

最初に吹き飛ばしたクオルドネルもあれから現れていない。

それにステン・マイスローズの姿も未確認だ。

隠れて隙を窺っている可能性もある。


「もったいないが、スルーする他ないか」


そう呟いた直後、ロードの居た場所に無数の剣が突き刺さった。

攻撃を間一髪かわし、体勢を立て直すために距離を取る。

剣の放たれた場所か木の陰に隠れるが、一息つく間もなく的確にロードのいる所へ無数の剣が襲い掛かる。


「くそっ……どうやってこっちの位置を掴んでんだ」


視界は暗く適格に狙える距離でもない。

考えられるのは音感知。振動感知。熱感知。

ロードは数発の雷撃をあちらこちらに撃ち音をたてた。

しかし、隠れている木目掛け一直線で剣が飛んでくる。

次に風をあちらこちらで振動させてみる。少し辺りを気にはしたがやはり無駄。

迷い無くこちらに向かい攻撃をしてくる。


「フレイレイド」


そして最後に森の至る所に火の小弾を放つ。すると剣の攻撃がピタリと止んだ。


「ビンゴだ」


千剣蛇は熱で相手を感知してるらしい。

タネが分かると対策は簡単だ。

森に大量に火の小弾を放ち、撹乱させるだけ。

ロードが躊躇なく森を燃やそうとすると、突然ぐらりと大地が揺れた。


「なっ……!」


千剣蛇は地中に潜り、木々を根からなぎ倒し、地面をえぐりながら

火のある所をしらみつぶしに串刺しにしてゆく。

ロードは飛翔を使用して一度地面を離れ、上空から様子を観察。

千剣蛇は地上を走っているより、地中に潜っている方が遥かに速く、

みるみるうちに火のある箇所を全て潰しきると大地は静まった。

地上に目を凝らすと、突然真下の地中から無数の剣が飛んでくる。

先ほどの量とは桁違いの剣の雨。風壁を張るが下から飛んできた剣が上から落ちてくるため

透明な球状風壁を張るが次第に四方八方見えなくなるほど剣が突き刺さり、針山状態になる。

内側から新しい風壁を張り直し、滅多刺しの壁を廃棄すると視界が晴れた。

その先には大きな剣山のような口。

バチンっと弾けるような壁を噛む音がした後に、自分が食われそうな事に気づく。

メキメキと風の悲鳴が聞こえ、ひび割れていく。限界寸前だ。

考えている余裕は無い、喰われて串刺しになるよりマシだ。


「爆雷―鬼灯ほおずき!!」


風壁が噛み砕かれると同時に鬼灯で口の中を爆撃。

その爆発でわずかに顔を逸らし、その爆風でわずかに飛ばされたおかげで、

剣をかすめ、爆炎に多少焼かれるほどで済んだ。

奴の口の中の剣はボロボロになり、煙を上げながらこっちを睨んでいる。

これが蛇睨みってやつだろう。

そもそも、どうやってこんな宙まで顔を出せるんだと、顔の動きも注意しつつ地上を見ると、

地面からここまで真っ直ぐと体が伸びてきている。ざっと見た体長の四、五倍は伸びている。

視線を顔に戻すと口を開いた千剣蛇は口から無数の剣を吐き出す。

近距離なので応戦するわけにもいかず、風壁を張って宙をくるくると飛び回りできるだけかわす。

剣を吐き終わると鬼灯で破壊した口の中は新しい剣に生え変わっていた。

そういう仕組みかと理解したのも束の間。

今度は体を回転させ、ぐるぐると身体を縮こまるほど捻りピタリと止ると猛スピードで逆回転。

体から生えた剣をとてつもない速度で無数に飛ばしてくる。

回転の加わった分、先ほどとは剣の速度も威力も桁違い。

先ほどはいくらでも防げていた剣だが、今は風壁で七~八本防ぐのがやっとだ。

くしくも防戦一方になるしかならず、風壁をなんども張りひたすら耐え凌ぐ。

魔力もタダじゃない。どんどんと魔力と時間だけが削られてゆく。

その間にロードは千剣蛇を倒す考えを巡らせる。

ゴデからの連戦で魔力を消費しすぎたせいで、奥の手は使えない。

魔界ならまだしも人間界では空気中のエナの吸収効率が悪く

ロードが魔力を完全回復するのに数週間以上かかるのだ。

敵という存在が判明した今、むやみに朔桜の宝具【エレクトロ電池チャージャー】を発動して奴に場所バレするのは避けたい。

それに敵の親玉ステン・マイスローズがどれほどの数の魔装や宝具を持ち

どんな能力の物を持っているか、残りどれほどの手下を従えているのかもまだ底が知れない。

とにかく、この場をできる限り魔力を使わず乗り切るかが、今後の戦いで重要になってくる。

まずは目の前の相手の情報を整理。


体長は二十五メートルほどで伸びると四、五倍ほどの大きさにもなる大蛇。

胴の太さはそこらの大型トラックとさほど変わらない。

外皮は硬い体鱗で覆われており、それに加え様々な形の剣が無数に生えてきて

それを飛ばすことができる。

放った後は体内からまた新しい剣が生えてくる。

原理は不明だが、口の中にも剣が生えており、口からも剣を飛ばす事ができるみたいだ。

音よりも振動、振動よりも熱で敵を感知する。

地中に潜る事もでき、地上で行動するよりも早いと。

さて、どうしたもんか。

情報を集約しているうちに回転は止まり攻撃が止む。

千剣蛇はまだ生きているのかと言いたげにロードを睨んでいた。


「何か言いた気だな。文句があるなら行ってみろ」


ロードは千剣蛇に言葉を促すも喋れる訳はなく返ってくる言葉はない。


「そろそろ俺も防御は飽きた。ケリを付けようぜ、千剣蛇」


睨み合う二体の最後の攻防が始まる。

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