第10話 攻守起点
静かな夜の森で月明かりだけが二人を照らし二人の影は平行に伸び、
ロードとステンはお互いに睨み合う。
余裕を見せ、笑みを浮かべるステン。
トントンと地面を数回蹴ると、一瞬でステンとの間合いを詰めた。
勢いを殺さず、体重を載せた拳でステンの腹部を全力で殴りつける。
しかし、それに手ごたえは無く、殴った衝撃でステンの体は鏡の様にバラバラに割れて散った。
偽物だと気づいた時にはすでに遅く、黒い水晶のライオン クオルドネルに背後を取られていた。
クオルドネルの猛烈なタックルを瞬時に風の璧が防ぐ。
円状のバリアも使えるが、少しばかり強度が下がるのが難点。
しかし、こういう一方からの攻撃は受けるよりも、受け流すほうが効率がよいのだ。
「
風壁が消えると軽快に跳び、大きなライオンの顔に位置取る。
空気が振動するような強い衝撃とともに
大きな巨体は木々をなぎ倒し、土草を巻き上げ森の奥へと吹っ飛んで行った。
しかし、休む暇は無い。
跳び蹴りの着地と同時に、四方八方から岩の槍が飛んでくる。
ロードは避けず迎え撃つ魔術を唱えた。
「
轟音とともに竜巻が現れ、飛んでくる岩槍を全て粉微塵に変えていく。
風嵐は森の奥目掛け、木々を巻き込みながら進む。
その先には薄ら笑うステンの姿。
「ふむ……。魔力は感知出来ないはずなのに……。野生の勘でしょうか」
軽くため息をつきながら手に持つステッキを
風嵐が結界に触れると、まるで溶かされていくかの様に跡形も無く消え去り
嵐が去った後の森に静寂が戻る。
「お前、大層な宝具持ってるな」
「ええ。自慢の一品ですよ」
ステッキを見せつけるかのようにくるくると回転させ手元に戻す。
あの宝具の名は 【
結界の範囲は狭いものの、物理以外の術全てを無かった事にする宝具。
あれがある以上物理攻撃以外はほぼ無効みたいなものだ。
無事象をどう対処するか考えていると、ステンは突然理解に苦しむ発言をする。
「もう諦めて殺されませんか? 無駄に魔力を消費したくありません。
今、自ら殺されると言っていただければ苦しまない様に首を
顔色ひとつ変えず、淡々と語るステンに
ロードは怒りが込み上げる。
「何がどうです? だ。ふざけるな」
怒りに身を任せ、親指を地に下げ言う。
「てめぇが死ね」
その行為を見てステンは先程までのうすら笑みを止め、
冷たい
「まったく。品も知性もない王族だ。
現れよ。クオルドネル、ピュイティリオ、
ステンの一声で森の奥からクオルドネルが翔け馳せ、
カワセミほどの白い鳥が宙に現れ、
「では、さようなら。狂った雷王の子よ」
魔力を大分消費し、不意打ちを食らい傷付いた体で対峙するのは三体の生き物とその主。
蹴られたダメージなど全くない無傷の体で立つ黒い水晶のライオン、クオルドネル。
常に不規則な動きで動き続けている白く発光した小さな鳥、ピュイティリオ。
体のあちこちから様々な形の剣が飛び出している黒い大蛇、千剣蛇。
そして魔界の地の“十二貴族”ステン・マイスローズ。
万全では無い状態でまとめて相手にするには少し分が悪い。
ロードは瞬時に身を
「はっ! 王族が敵に背を向けて逃げるなんて、実に滑稽ですねっ!」
高笑いをするステンの声など耳には入れず、敵との距離をひたすらに離す。
無視が気に
三体は弾丸のように一斉に飛び出すが、なかなかロードとの距離を縮める事はできない。
むしろどんどん離されている。
直線速度のあるクオルドネルだが、木や根が邪魔をしてうまく走れていない。
小柄で身軽なピュイティリオは障害物はうまく避けるが、スピードが上手く乗らず二体は平行して進んでいる。
千剣蛇にいたってはスピードはあるものの、体が大きいため木々をなぎ倒し進んでいるので、二体の遥か後方にいた。
ピュイティリオは進行方向を定めると、自分の後方にいくつもの魔方陣を展開。
水色の魔方陣が白く発光した次の瞬間、一本の青白い巨大なレーザーが前方に放たれる。
小さい体と対照的に、放たれた巨木ほど大きな一閃は森の木々を跡形も無く消し去った。
射程距離は百メートル近い。
魔力の波動を感じ取ったロードはいち早くレーザーの範囲から外れたが
その拓いた道から黒い水晶の獣が猛スピードで距離を詰めてきていた。
追ってきた相手の数を確認し、ロードはクオルドネルの正面に堂々と立つ。
クオルドネルは目標を捕らえると、そのまま一直線に突っ込んだ。
だが、またも風の壁が阻みロードには攻撃が届かない。
「全く学ばないな、この猛獣は」
動きの止まったクオルドネルは格好の的。
右手首に左手を沿えぶれないように固定し魔術を唱える。
「爆雷―鬼灯(ほおずき)!」
その名の通り鬼灯に似たバチバチと弾ける電撃の塊が、勢いよくクオルドネルの顔に炸裂。
電撃が弾け、轟音とともにクオルドネルは再び暗い森の奥に吹き飛んで行った。
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