第8話 日常の裏側
俺は朔桜が学校に行くのを見送ると、以前に朔桜が買ってきた無地の黒い服に着替える。
家に張った結界をチェックして問題がないことを確認し、玄関で靴を履きドアに鍵をかけた。
朔桜との約束で、ある程度人間界の知識を身につけてくれと言われ
こちらの世界の事を調べたり、朔桜に口うるさく言われたりしながら身体で少しずつ覚えたのだ。
朔桜との約束の内容はこうだ。
・母を探し出すこと。
・朔桜の命と宝具を守ること。
・人間界のルールを守ることだ。
これを守る代わりにあっちにも条件を出した。
・宝具の存在を秘密にすること。
・自ら危険に首を突っ込まないことだ。
・他の人間に俺の存在を明かさないこと。
お互いにこれを守りながら生活している。
命を守るならできるだけ一緒に居たほうがいいと朔桜の提案で家に厄介になっている。
その対価として、魔界を出る前に王城から宝具のついでに盗んだ宝石や黄金を渡したが
これ一個で十分すぎると中でも一番小さい親指の爪ほどの大きさの
ダイヤモンドだけを受け取りそれを換金しに行った。
大層な値が付いたのであろう、換金から帰ってきた朔桜はずいぶんとご機嫌な様子だった。
魔物の襲来以降、朔桜には今まで通りの生活に戻ってもらった。
朔桜には普通に生活をしながらやってもらうことがある。
それに予期していない事が起きた。
宝具の存在を知っているのは、俺と朔桜だけだと思っていたのだが、
数日前に三体の魔物が同時に現れたのだ。
そのことは朔桜には知らせていない。
広い人間界でいきなり多数の魔物が現れるなんて偶然とは思えない。
そもそも人間界に魔物がいる事自体がイレギュラーなのだ。
なにかの拍子で迷い込んだり、例の事件の生き残り、もしくは俺のように宝具を使ったりと
特殊な方法を使わない限り、魔界の者は人間界には行けないはずなのだが。
俺の前に現れたのはオーク種、スライム種、モグラの魔獣の三体。
突然海の中から魔力を感じ、足を運ぶと来るのを知ってたかのように待ち構えていた。
数回会話を交わした後、魔物たちは一斉に襲いかかってきた。
俺が一旦距離を取ろうと後方に退くと同時に、魔物たちから眩い閃光が放たれた。
「――――――――っ!」
次の瞬間三体の魔物は大爆発。
とっさに空気の壁で敵を囲い込み爆風は外に漏れずに大事にならずに済んだ。
足元の砂地は吹き飛びその跡は真っ黒に焦げ、大きなクレーターになっていた。
敵の体内に爆弾でも仕掛けられていたのだろう。
間違いなく俺を殺すためにけしかけられた、だだの
本人たちには知らされていなかったのだろう。死に恐怖してたり、覚悟が決まった顔ではなかった。
魔物を捨て駒に使い、不意打ちで俺を殺そうとしていたようだ。
この事で確証できたのは
狙いが俺なのか、朔桜の宝具なのかはわからないが、どっちも警戒するに越したことはない。
ということで家に結界を張ることになった次第だ。
設置に数週間の時間がかかったが、中級クラスの結界は王宮で学び、多少の覚えがある。
強めの攻撃でも一撃、二撃ぐらいは防げるだろう。
朔桜に魔導具も渡してあるし、なにかあってもこの町の大きさなら数分で飛んで行ける。
まずは障害を排除しないことには、安全に朔桜の母の捜索もできない。
俺は以前魔物たちが現れた砂浜に立ち寄ってみた。
砂浜は綺麗に舗装されもとに戻っており
海辺近くの店の店主に話を聞いてみたが、ガス爆発で処理されたらしい。
幸いにも早朝の海辺での数分程度の出来事だったので、見ていた者はいなかったみたいだ。
辺りを少し捜索してみたが、何も手がかりになりそうなものはなかった。
現場の確認が終わった後は、夕方まで図書館で人間界の言葉や歴史を調べる。
これはほぼ毎日の日課だ。
今回特に調べていたのは二百年前の例の事件、“
魔界にいた頃ほんの少しだけ聞いた事があったが、覚えているのは断片的だ。
人間界と魔界の繋がりの話は少しでも頭に入れておきたい。
当時の本は書庫に保管されているらしく、それを丸々写したデータをPCで閲覧した。
記録にはこう記されていた。
1XXX年。人間界の山頂に突如として人間界と魔界とを繋ぐ巨大な裂け目が出現。
裂け目からは魔物、魔獣と呼ばれる魔族の群れが人間界へ現れ、侵攻を開始した。
魔族は次々と人を喰らい、殺し、暴虐の限りを尽くし、被害者は数百万人に上った。
人々も気の力で応戦し、魔物と戦い続けたが、戦況は劣勢。
しかして、魔物は増えていくばかり。
人々は各地の宝具使い魔族と対峙した。それが層を奏し、魔物を圧倒していくと
魔物を操る者たちが現れ、戦争は再び激化していった。
その二年後、世界に出現した裂け目は一人の巫女の力で封じられ
熾烈な戦いの末、人間の勝利で戦争は幕を閉じた。
人間界に平和が訪れたのだ。
最後の数十ページには、戦いで死んだ人の名前がびっしりと記されていた。
これが“人魔戦争”か。まさか二百年前にこんな事が起きていたとは。
俺はその他の関連資料を時間の限り見漁った。
図書館から閉館のチャイムが鳴る。
「帰るか」
出した資料を本棚にしまい、PCの電源を切り帰り支度する。
図書館から出て帰路に就いていると、山の奥深くから異様な殺気を感じ取った。
「やれやれ、ようやくお呼びのようだな」
人目の無い場所に移動し、右の指を鳴らすと
周囲に散ってた大量の鴉が俺の身体に集まりだす。
身体に人間界に来た時に着ていた『黒鴉の衣』を
これで戦闘態勢万全だ。
わざとらしく放たれた殺気は明らかに俺に向けられている。
海とは反対側の山奥には見渡す限りの森林が広がっていて、まるで草木の海のようだ。
不用意に飛び込まず、辺りを警戒しながら相手の待つ所へ向かう。
小一時間ほど歩くとすでに日は沈んでしまった。
殺気の感じた場所に着くとポッカリと草木が消え、
鋭い岩があちらこちらにある不安定な岩の大地が広がっている。
その一際大きい石の陰からゆっくりと姿を現したのは、
月明かりで目が眩むほど白く輝く、大きな敵の姿だった。
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