第7話 朔桜の日常
朝、カーテンからこぼれる陽光で目が覚める。
目覚ましが鳴る数分前。鳴る前の目覚ましを止めた。
ベッドから降りて、可愛い薄ピンク色のパジャマを脱いで
白いワイシャツと紺のスカートを身に着替え
忘れずにスクールバッグを片手に持ち部屋を出た。
階段を下りて洗面所で顔を洗う。
リビングに入るとソファーでロードさんが物静かに寝ていた。
ずり落ちているタオルケットを掛け直してあげて、制服のままエプロンを着けキッチンに向う。
冷蔵庫を開け、入っている食材で手早くメニューを決める。
卵を二つと薄切りベーコン二枚、サラダパックを二袋と味噌、豆腐、わかめを取った。
フライパンに火を当て油をひき、鍋に水を入れ火をかける。
サラダパックを素早く水洗いし、手慣れた動きで豆腐とわかめを切り、
フライパンにベーコン、鍋に豆腐とわかめを入れる。
火を通してる間に、サラダをお皿に盛りつけ、テーブルに運んだ。
ドレッシングはさっぱりしたのにしよう。
ほど良く香るベーコンの上に卵を二つ落とし、蓋をした。
鍋は火を弱め味噌をよく混ぜてから蓋をする。
朔桜は茶碗を取り、昨日炊いていたご飯を二杯に盛る。
「あちちっ」
両手の指先で茶碗の底と淵を持ちながらテーブルに運ぶと、寝ている男性に声をかける。
「ロードさーん朝ご飯できましたので、起きてくださーい」
声を掛けながら数回彼を揺するとキッチンに戻る。
フライパンと鍋の蓋を開けると空腹を誘う香りが立ち込めた。
それぞれを可愛いお皿に盛り付けお盆で運ぶ。
それを配膳するとご飯、納豆、味噌汁、ベーコンと目玉焼き
二人分の和食がテーブルに並んだ。
「ロードさーん」
先ほどより強めに揺する。
するとロードさんは細めを開け不機嫌そうに目を覚ました。
「ん……起きた」
重心が取れずふらふらと起き上がる。
眠い目をこすりあくびをすると、私の対面に座る。
「食べる時の言葉覚えてます?」
「ああ、覚えてる」
二人は両手を合わせてこう唱える。
「いただきます」
これがここ数週間の私達の生活だった。
食べ終えるとすぐに食器を片づけ手早く洗い物を済ませた。
壁の掛け時計を見るとそろそろ登校の時間。
エプロンを外すとバッグを手に洗面所で歯を磨き
鏡で身だしなみを整えて、鏡に向かって頷く。
「行ってきまーす」
元気よく玄関から出て行こうとしたのを
リビングから出てきたロードさんが引き留めた。
「忘れ物だぞ」
そう言って私へ放り投げたのは、折り畳み式の黒い鏡。
これは『
こっちの世界でいうところのスマホのような魔導具らしい。
最初にかける相手を登録しておき、魔力を使うとその相手と会話することができる。
最大四人まで会話することもできるらしい。
鏡に魔力を溜めてその力で会話することができるらしく、
私は使用後ロードさんに鏡を渡し、魔力をチャージしてもらっている。
私のペンダントでもチャージすることはできるみたいだけど
先日の一件みたいな事を危惧して、使わないようにとロードさんから言われている。
その他にも、ロードさんから二個ほど護身用の魔導具を預かっている。
万が一の時のためと言っていたが、できればそれは使う機会が無いことを祈りたい。
受け取った魔導具をバッグへしまう。
出かける前一つ重要な事を言い忘れ、閉まりそうな玄関の扉を素早く押さえた。
「今晩はハンバーグを作るので、出かけるなら早く帰ってきてくださいねー」
んーと言うロードさんの生返事を聞いた後、再び行ってきますと声をかけ学校へ向かった。
ここ数週間は何事もなく平和だ。
私は学校へ行きクラスの友達と他愛も無い話で盛り上がったり
放課後は明と町をぶらぶらと歩き回り、ウィンドショッピングをしたり、カフェでお茶したりしたりする。
たまに昔お世話になった学童へ顔を出し、子供達と遊んだりしている。
帰りはスーパーで食品を買い、帰路に就き夜ご飯を作っていると
ふらふらと出かけていたロードさんが帰ってきて一緒に食事を取るという毎日を過ごしていた。
毎日どこに行っているのかは知らないけれど、朝と夜は必ず家に帰ってきて一緒に居てくれる。
私を一人で育ててくれたおばあちゃんが亡くなり、この家に一人ぼっちで暮らしていた私に
今は家族のような存在ができた。それが少し嬉しかった。
ロードさんはあまり多くは話してくれないけど
私の学校での話をなんだかんだちゃんと聞いてくれている。
不器用で無愛想だが、蛙との一件の後、空を飛んで夜景を見せてくれたのも
私を少しでも落ち着かせるためだってことは察することができた。
そんな素直じゃない優しさがあるということを
ここ数週間暮らす中で分かるようになってきていた。
そんな事を考えながら通学路を歩いていると誰かに肩をポンと叩かれる。
後ろを振り向くと明がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「どうしたの
「おはよ
「おはよ、朔桜。どうしたの? そんな浮かれて歩いて~」
「別に浮かれてないよ!」
手を大げさに振って否定する。
「前話してたロードさんでも見つかった?」
「な、何の話?」
私は
見知らぬ少年を家に泊めているなんて
明に話したら彼女は黙っていないだろうし。
ロードさんからは事情を知らない他の人には口外するなと強く言われた。
「前話してくれたじゃん! 朔桜の妄想話。
そのお話のストーリーが進んで上機嫌だったとか?」
「あ~まあ、そんなところかなぁ~」
明の中ではロードさんの存在は私の妄想の話だと思っているようだ。
ならこのまま
「前の話からどんな展開になったの?」
「えっとね~私が色々探してたらね大きな蛙みたいな化け物が現れてね、
私を襲ってきたけどロードさんが現れて助けてくれるの!」
「朔桜ロマンチスト?」
またも呆れたような顔でこちらを見てくる。
「違うよ!」
全力で否定し話を続ける。
「それで、それでね、下級の雷術しか使えないって言ってたのにとっても強くて、
その雷撃で蛙を一瞬で倒しちゃったの!」
「ふ~ん……そうなんだ~」
空返事を返す明。
「それから~それから~」
以前あった戦闘の話だけをザックリ話しているうちに教室へ着いていた。
まだ時間に余裕があるため教室の生徒はまだまばら。
みんな仲の良い友達と集まり談笑をしたり、
やり残した課題をやったりと様々だ。
「あっ……ここ最近課題全然やってなかったんだった!」
「あれ? 珍しいね。何か忙しかったの?」
「まあ色々とね、ごめん! 朔桜また今度聞かせてね!」
明は教室に着くなり、急いで机の横にバッグを掛けると
机の中からプリントを取り出し問題を解き始めた。
私は教室の左後角の窓側にある自分の席に座ると
ぼんやりと窓の外の朝錬の片付けをする陸上部を眺めて考えていた。
今頃、ロードさんは何をしているのだろうか。
教室に先生が入ってきて日直の生徒に号令を促すまで
そんな考えが私の頭の中をぐるぐると巡っていた。
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