第6話 動き始めた計画

暗く狭い部屋の一室。

外からは魔力を感知させないよう

何層にも徹底した結界が張り巡らされている。

大きなフード付きの黒いマントを頭から目深に被る者がたたずむ。

手に持った黒い鏡を静かに開き、自らの魔力を込める。

すると鏡が反射した持ち主ではなく、

全く別の空間にいる者を写し出した。

高価そうな椅子で足を組み、ワイン片手に優雅にくつろぐ二十代くらいの眼鏡の男。


「準備は、できたのかい?」


とても落ち着き、気品ある声で通信者に問いかける。


「いえ、実は……トラブルが発生しました」


ばつが悪そうに返す、若い女の声。


「ふむ……。なにがあったか話してくれ」


トラブルという言葉に一切動じず、

澄んだ声で説明を求める。


「はい。先程、ホプスが早まり、対象者と接触しました」


「ふむ。それで、彼は宝具を手に入れたのかな?」


驚いた様子もなく淡々と話す。


「いいえ、手にしていないと思われます。

別の魔力の反応を感知した後、

ポプスの魔力は消滅しました。

相手の力は微々たるものでしたが、

その魔力の質からして――――」


「王族。雷国の次男、ロード・フォン・ディオスか」


女の言葉をさえぎり、男は冷静に言葉を放つ。


「……おそらく」


「まさか、例の問題王子がこちらに居るなんてね。

最初に報告を聞いた時は大層驚いたよ。

でも、門を使わずにどうやって転移したのやら……」


男は肘掛けにもたれ、指を口下に当て思考する。


「いかがいたしますか?

宝具回収の邪魔になるようでしたら、私が暗殺いたしますが」


女はどこからともなく、取り出した細長い剣の柄を手の上で転がす。

長い柄を強く握り、戦う意思をアピールする。


「残念だけど、君では勝てないよ。腐っても、彼は王族だからね」


苦笑する男はワイングラスを軽く回し、香りを楽しんだ後、一口飲み言葉を続けた。


「今から魔物数体そちらに送る。その兵は君の好きに使ってくれていい。

あと、セルヴィスとゴデにも召集をかけておいた。迎える準備をしておいてくれ」


淡々と手順を語る男の声は、心なしか楽しんでるように聞こえる。


「あの二人も来るのですか……?」


不意の提案を受け、女の言葉に不満の気持ちが混じる。

男はそれを機敏に感じ取った。


「なんだい? なにか不満が?」


言葉には圧力と威圧が込められている。

反論なんて出来る雰囲気ではなく、

それを許される事は万一にも無い。


「いえ、ありません。準備、承りました。ただ……ひとつだけ、ご相談があります……」


「なんだい? 言ってごらん?」


「実は――――」


渦中の二人は何も知らぬまま、水面下で事は動き出す。 


この出来事が、この世界での物語の始まり――――。

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