第3話 幻想物語

「はぁ~」


教室の机に肘をつき大きくため息をつく。

ロードさんを拾った日から、すでに数日が経っていた。

しかし、その後も彼は家に顔を見せることはなく、全く音沙汰なかった。

ここ数日は、そのことで頭がいっぱいだ。


「朔桜ぁ~」


うしろから声が聞こえ、なにかが覆いかぶさり、私の胸をいやらしい手つきで揉んできた。

私が反撃しようと素早く振り返ると、綺麗な艶のある金髪がしなやかに揺れた。

羽のように軽やかにピョンと後ろに跳ね、彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「もーやめてよ、てぃな


長い淡い金髪を左側でサイドテールにしていて、

右耳に十字の先端にハートが付いた黒いイヤリングをしている

顔立ちの良いこの女の子は、月星つきほし  てぃな

中学生からの付き合いになる私の親友。


「どうしたの? 考え事なんてしちゃって」


「考え事ぐらい誰でもするでしょ?」


「いや! 朔桜が考え事するなんて、これは事件よ」


「考え事するだけで!?」


「そうよ、今の顔はそうね~男絡みね!」


「ギクッ!」


ピンポイントで悩みを突かれ、つい言葉でギクッと言ってしまった。

すると何故かクラスの男子達が騒めき立つ。


「おい……聞いたか今の」


「ああ、聞いた……ショックだ……」


「まさか並木にそんな相手が居たなんて……」


みんなひそひそとこっちに視線を集めて、

思い思いの事を口にする。

あまり注目を集めるのは好きじゃない。


「で、で! ギクッってことは当たりなんでしょ? 教えてよ! 彼氏? 彼氏!?」


食い気味に顔の目の前まで、近寄ってくる。

明、いつも以上に目が本気だ……。圧が凄い。

一人で悩むより、明にも話して二人で共有し、気楽に構えたいという気持ちがあった。

明も私の家庭の事を知っているし、あわよくば、一緒に探してもらえるかもしれない。


「うん、わかった。放課後話すね」


少し考えた末に明にも話す事にした。


―放課後―


校舎裏の質素なベンチがある休憩スペースに明を呼び、昨日あった出来事を全て話した。


「――――って訳なんだ」


「うんうん、よくわかった。じゃあ今の話をまとめるね」


明は人差し指をくるくると回しながら、話をまとめ始めた。


「昨日朔桜は、夜の公園で黒鴉の衣を着たマ人と日本人のハーフロードくんが血まみれで倒れていて、朔桜のペンダントを当てたら、傷が治り家に運んで介抱したと。

彼は元気になりペンダントを奪おうとしたが、ペンダントに触れられず、お母さんを探したら渡すという条件で手を打ち、その後、二階の窓から飛んで出て行ったその人を一緒に探してほしいと……」


「うん! そう!」


さすが明! 完璧に昨日の出来事を一言でまとめてくれた。

後は一緒に探してくれれば……などという考えは甘かったようだ。

明は呆れたような、心配しているような深妙な声でこう言った。


「朔桜……。少し休んだほうがいいよ」


「!?」


「朔桜、最近よく寝てる? 睡眠は大切なんだよ? 

それともなんか辛いことあった? なんでも相談に乗るよ?」


「毎日よく寝てるし、辛いこともないよ!

さっきの話は昨日あった紛れもなくほんとの話なんだよ!?」


必死で弁解するも、完全に妄言だと思っているであろう明は、聞く耳を持たない。


「どう、どう、わかった。わかった」


明は突然スマホを鞄から取り出し画面を開く。


「あ! 私、急用ができたみたい~~! もう行かなきゃ~~!」


わざとらしい口調が嘘だとバレバレなんだけど……。


「ちょっと待ってよぉ~」


明は右手を軽く振りながら、そそくさと小走りで去って行ってしまった。

おそらく虚言妄想癖の電波女と思われてしまった事だろう。


「ほんとなのになぁ……」


誰一人聞いていない中、呟いた言葉は空に消えていった。

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