#4F 夜とドロレス


 「じゃあ…皆んな、解散。また明日いつもの時間でな」

合図をきっかけにマークとルーノは宿屋街に、バレルとラルクは住宅街へと足を向けていき広場に残ったのは二人だけとなった。

緩やかに帰路に着く4人の背中を見送った後、ドロレスは欠伸をしながら深く伸びをする。

「…で。ネオは今日どうするの?」

「地下に帰る…?」

そう言うと、彼女は呆れた顔をして俺の目を見つめる。視線に耐えきれずに顔を逸らすと、彼女は深く溜息をつく。

「取り敢えず、今日の所は私の下宿先に泊めてあげるわ」

「あ、ありがとう…ドロレス」

***

ドロレスはポケットから鍵を取り出すと玄室の扉の鍵穴に差し込んで回すと重い扉がゆっくりと開く。

それから彼女は俺の方に顔を見上げる形で向けると話し出す。

「うちの下宿先には一応、同居人が居るから気を付けてね。…別に仲良くしなくても良いから」

「分かった」

「よし、偉いわ」

ドロレスはそう言うと、俺の頭に手を伸ばす。

何をしようとしているのか分からなかったのでそのまま顔を覗き込んでいると急にドロレスが恥ずかしそうに扉に向き直る。

「と、とにかく!そういう訳だから!」

そう言って彼女が扉を開けると、彼女の同居人が大きな椅子に腰掛けて本を読んでいるのが見えた。

「ただいま、ノエル」

荷物を置きながらドロレスが声を掛けると、同居人は本を閉じて私達の方を見る。

「おかえり、ロリちゃん。その緑色の眼の子は?」

返事を返した彼女は艶のある長い黒髪に澄んだ黒い瞳をしており、落ち着いた雰囲気を纏っている。

(…何となくマザーに似ている気がする)

黙っているとドロレスがぶっきらぼうに返事を返す。

「あぁ、この子はネオって言うの。…まぁ気にしないでいいわ。覗きとかしないと思うし」

ドロレスがそう言うと、ノエルは立ち上がって俺の側までやって来る。

「そうなの?ネオ君?」

「覗くって何を?」

「ね、心配要らなかったでしょ?」

ドロレスがノエルにそう言うと、彼女は納得したような表情で本に戻る。


***

暫く時間が経った頃、部屋の中は穏やかな眠気が充満し初め、就寝前の静けさに満ちていた。

「…で。ネオはどこで寝るの?」

「ドロレスのベッド」

「…いやいや、私もベッドで寝たいんですけど」

「同じ布団で寝る」

「え、なんで…?もしかして…ネオって今、邪なこと考えてる感じ?」

「邪かどうかは分からないが考えてる事はある」

「言ってみなさいよ」

尋問する様に腕を組んでいる彼女に少しずつ呟く様に話し出す。

「…俺はマザーが居たからずっと独りで生きてきた訳じゃない。だけど、夜になるとマザーは外に出ていくんだ」

「……」

「それは俺を守る為にやっていたのかもしれないが、俺は怖かった」

「独りの夜がずっと怖かったんだ。毎日だって思っていた。仲間が欲しい、こんな一人の夜はもう沢山だって」

「…そして今がそれを解消するチャンスだって言いたい訳ね」

「多分、そうだ」

彼女は唸ったり、考えたりしている様だったがやがて大きな溜息をつくとベッドに腰掛けて手招きする。

「…何やってるんだ?」

「馬鹿…早く入りなさい」

促されるままに近付くと彼女はそのままベッドの中へと引き込ずり込み、俺の身体は抵抗する事無く潜り込む。

彼女は俺の背中を優しく叩きながら、小さく囁く。

「おやすみ…また明日」

見届けたノエルが灯りを消すと、安心したのか俺の身体は程良い脱力感に包まれた。

「…ん」

寝惚けたまま彼女を力無く抱きしめると、見開いた彼女の眼と視線がかち合う。

「…ど、どんな気持ち…安心してくれてるの?」

「ワームより…柔らかい」

「比較対象おかしい。…でも、まぁ良いわ」

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