#2F ならずの集い

中に入ると暖かな光に照らされた冒険者達が酒を飲んだり、飯を食ったりして騒いでいる。その光景に圧倒されていると、ドロレスが俺の手を引いてテーブル席まで連れていく。

「皆んな、お待たせ!あ、でもマークはちょっと遅れてくるから!」

彼女の言葉にこれからの仲間達が笑いながら各々の反応を見せる。

「ふぅーん…オレは今直ぐにでも此処を出たいのになぁ」

「ふふ…しょうがないですよ。あの人にも考えがあるのですから」

「しかし、我々を置いてまでやる用とは一体何なのだろうな?」

「今日来た新人の装備を買うんだって。…あ、コレにしよ。ネオも同じで良い?」

ドロレスはメニュー表を見ながら手慣れた様子で店員を呼ぶと、料理を注文する。

俺はその間、黙って他の客を観察する事にした。皆んな様々な武器を持っているが、どの武器も傷一つなく綺麗に磨かれており、丁寧に扱われているのがよく分かる。そうこうして居るとやがて店員が注文した料理を運んできたので早速食べる。

初めて調理された食べ物を食べた感想としては合っているか分からないが…普通の味だ。

「ネオ、美味しい?」

このパスタ?とかいうのも焼かれただけの肉と野菜だって何の変哲もない普通の味だ。

「あ、震えてる…美味しかったんだ」

ドロレスが笑顔でそう言ってくるので、俺も分からないなりにコミュニケーションを取ろうと暫く二人で話してみる。

すると正面の3人のうちの一人…フルアーマーの鎧を着込んだバケツ剣士が口を開く。

「なぁ、ロリちゃん。その男が新人?」

「私もう16だしドロレスです!…あ、それと新人で合ってるよ。名前はネオ」

取り敢えず軽く会釈をしてみるとと、直ぐに返事が来る。

「ああ、ネオね…覚えた、覚えた。オレはラルク。ま、気楽にラーって呼んでよ。気楽には呼び辛いかもだけど」

ラルクが自己紹介をすると横の僧侶、というかシスターっぽい格好の女も倣うように自己紹介をする。

「私はルーノと言います。これから宜しくね、ネオ君」

最後に如何にもな風貌の老戦士が口を開く。

「ワシはバレルと言う。…身長が低いのはドワーフだからだ。それとワシの好みは…」

「はいはい…お爺ちゃん。オレ達もコイツも聞いてねぇーよ」

ラルクが呆れながらダンクの話を遮って俺とドロレスに話しかけてくる。

「なぁ、ロリっ娘。オレ、コイツと仲良くなりてぇから外してもらっても良いかな?ほら、受付嬢と話すとかさ…」

ラルクがそう言うと、ドロレスは複雑そうな顔をして俺を見る。

「まぁ、良いですけど…あんまり揶揄っちゃダメですよ」

彼女はそう言うと、掲示板の方へと足を運んで行ってしまい、席に着いているのは4人だけとなってしまった。

***

「えぇ〜と…ネオ君だっけ?まぁそう警戒しなくて良いから。あ、そうだ。水入れてやるよ!」

飲んでいたコップを手渡すとラルクは豪快に水を注いでいく。

(さぁ〜て。ルーちゃん。水を死ぬ程酸っぱくする魔法やったげてよ?)

(はぁ…後で怒られても知りませんからね?)ルーノはそう言うとコップに手をかざす。

俺が訳も分からず、その様子を見守っているとラルクは口元を隠して小声でバレルに話しかけている。

「ほい!水注げましたよーと!」

「…ありがとうございます」

渡された水を勢い良く飲み干すと3人は立ち上がり焦った顔で見合わせている。

確かに、1杯目と比べると酸っぱかったがコレぐらいは割としょっちゅう飲むと思うのだが。

「お、お、お前飲んだのかよ!酸っぱかったよな!?」

「あり得ないわ!?魔法が掛かってないとしか思えない!」

「お、お前さんどんな技を使ったんだ?」

怒涛の質問攻めをしてくる三人を落ち着かせると俺は話し出す。

「確かに2杯目の方が酸っぱかったけど、言うほどじゃない。今までもっと酷い水だって美味しいと思って飲んでた」

「お前……それ本気で言ってる?」

ラルクが唖然としてそう聞いてくるので頷くと、バレルが俺の肩を思い切り掴む。

「なぁ少年。ワシが一杯好きなの奢ってやるぞ」

「ありがとう…ございます」

何となくだが、二人の人柄が少し分かって来た。きっとバレルは面倒見が良いんだろうし、ラルクも良く分からないが、悪い奴ではなさそうだ。……だけどルーノは良く分からない。今だって何も話さずに俯いてブツブツと何かを話している。

「あの魔法は…“死ぬほど”酸っぱい魔法なのに…言うほどじゃないだなんて…」

「お、おいルーノ?オレ達のイタズラは終わったんだ。歓迎会らしい顔しよーぜ?」

「ネオ!貴方、私の魔法が言うほどじゃないって抜かしましたね!…良いわ、最大の魔法で葬り去ってあげる!」

ルーノは立ち上がると突然、詠唱を始めて大きな水の塊を頭上に浮かべる。

「ちょ、お前…既に風が酸っぱい…コレはマジで死ぬぞ!?」ラルクが慌ててルーノを止めに入る。

「私の魔法の凄さ…その身に刻んでもらうわ。ネオ!」

彼女がそう言うとラルクは青ざめた顔で俺の前で盾を構える。

「な、無いよかマシだろ!ネオ!」

「ああ、ありがとう」

二人で酸っぱい水球が突っ込んでくるのを今か今かと待っていると入り口の方から聞き慣れた声がする。

「お前ら、店に迷惑かけてるのが分からないのか!」

買い出しから帰って来たマークの声が店内に響くとルーノは即座に戦闘態勢を解除すると、満面の笑みで声を掛ける。

「ふふ…。ごめんなさい、マーク。ちょっと見境が無くなってしまいました。反省します」

「ああ、頼むぞ。本当に…」

「ふふ…お任せあれ」

***

外してたドロレスが足早に戻ってくると六人は一つのテーブルを囲んで座り、マークは飲み物を頼んだ。

「さて、次の仕事についての話だが…いつも通り正面入り口から行ける所まで行ってみようと思う」

皆んなが納得したような反応を見せると、マークは俺に向かって声を掛ける。

「お前は取り敢えず好きなように戦ってくれ。後、分からない事があったらコイツに」

そう言うとマークはドロレスの肩を二、三度ポンと叩く。

「え、ちょっと待ってよ!私だって別に歴が長くないんだから!」

「別に良いだろ。ネオの奴もお前に懐いてるみたいだし」

ドロレスはその言葉に俺を見ると、困ったような顔をして口を開く。

「ネオは私の事…好き?」

「うん」

俺が答えると彼女は取り乱して捲し立てるように返事を返す。

「ば、馬鹿!素直すぎるわよ!もっとこうなんか…言い方とかあるでしょう!?」

「言い方なんて分からない。教えてくれ、ドロレス」

俺がそう言うと、彼女は顔を逸らして呆れ切った小さな声で返事をする。

「まぁ…足手纏いにはならないでね」

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