妖怪の子

夢月みつき

本文・「妖怪の子」

「妖怪の子」登場人物紹介


鵺野夜火ぬえのやか 十八歳 男

妖怪、鵺と人間の母との間に生まれた半妖。

引きこもりで高校には、通っていない。


有栖川ありすがわありさ 十七歳 女

女子高生、夜火と電車の中で出会う。


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――ぬえ、その物の怪は「平家物語」等に登場し、猿の顔、虎の胴体、手足を持ち、尾は蛇と言う奇怪な妖怪である。一説には、“雷獣らいじゅう”と伝えられている――


おれは、鵺の父と人の母を持つ、半妖だ。

人間の世界で、人として暮らしている。

おれの名は鵺野夜火ぬえのやか、十八歳。実際は八百年も生きている。



今おれは高校には、通っていない。世間的には引きこもりと言うものだそうだ。

それは、高校の奴らがあまりにも、子供じみていてくだらない奴らばかりだからだ。



奴らは、暇さえあれば他人を蹴落とし、同族をいじめるのを止めようとしない。

全く、人間という奴らは昔も今も変わらない…。



全てがそうだと、決めつけていた、あの日までは。

おれは、趣味の水彩画の画材を購入しようと外出し、電車に乗った日にその娘と出会った。

花房町と言う町にある明聖女学院めいせいじょがくいん、高等部の制服を着た女の子だった。



黒髪を頭の後ろで、お団子にしてまとめていて焦げ茶色の大きな瞳の可愛らしい容姿、おれのハートは、その時に撃ち抜かれた。


とその時、彼女の後ろに二十代位の男が移動して来た。

おれが、横目で見ていると、そいつはあろうことか。可憐な彼女の尻を嫌らしい手つきで撫で始めた。それに震えながら怯える彼女。



しかし、周りの奴らは見て見ぬふりをして、助けようともしない。

おれはいらだち、気がついたら体が動いていた。


「おい、何やってんだ?テメェ」


おれは、男の手を掴み、彼女から引き離した。

奴を睨みつけ、怒りで一瞬、おれの黒い目が金色に光る。

すぐさま、駅員が呼ばれてそいつは、事情聴取に連行されて行った。


「大丈夫?君」


おれが彼女に声を掛けると、彼女はほっとした表情でおれに礼を言って来た。

「ありがとうございます、私は有栖川ありすがわありさと言います。是非、お礼をさせてください」

心の中で、思わずガッツポーズをする。



+★+

礼を受け入れおれは、ありささんとカフェに行くことになった。

彼女と話しながら、カフェの行きがけにおれの名も名乗る。



その刹那、雑踏に紛れて道の向こう側から全身、黒づくめの怪しい男が歩いて来た。

人の姿をしているが、殺気と妖怪特有の妖気を発している。

男は、おれ達の目の前で足を止めた。

おれは彼女を後ろ手で守りながら、身構える。


「お前は、誰だ…?」

「鵺の息子、ここで遭ったが百年目!」


そいつは、人の皮を破ると突如、襲い掛かって来た。

奴の正体は、おれが百年前に痛めつけてやった一つ目の怪僧かいそう、見上げ入道だった。



だが、彼女や他の人間達には、見上げ入道の姿は見えない。

奴は、見上げるほどの巨大な姿になり、あろうことか彼女をつまみ上げようとした。


おれは、カッとして怪僧の巨大な指を蹴り上げた後、打ち伏しながら言い放つ。

「見上げ入道、見越した!」



するとみるみる、豆粒ほどの大きさになってしまう、見上げ入道。

いきり立ち、顔を真っ赤にして怒っている、見上げ入道を尻目に

俺は舌を出すと、「残念だったな、さよならだ」とつぶやき、口の中に放り込んで噛み砕いて呑み込んでやった。



「あの、鵺野さん、どうしたんですか?」

不思議そうに聞く彼女に、何事もなかったかのように微笑み、カフェに向かった。



+★+

その夜、おれの体内なかの鵺の血は、覚醒した。

新たな王の誕生に、日本中の妖怪どもが嬉々ききとして、吠えたと言う。


「まずは、手始めに…」

次の日、おれは久しぶりに登校し、この力で気に入らなかった奴らに制裁を与えてやった。




<終わり>


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最後までお読み頂いてありがとうございます。

別サイトさんのイベント用に一話完結で書いて見ました。

私の作品にしては終わり方が…(;^_^A

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