第34話 黒崎明日菜のけじめ
2日前、黒崎明日菜の生徒会長任期延長が全校集会で決定された。
誰も次期生徒会長に立候補者がいなかったのだ、現会長が2年生という事もあって、もう一期存続は学院中の生徒にあっさりと受け入れられた、2期連続での会長就任は学院では初めての快挙といえるのだが、そこに待ったをかけたのが女子バスケットボール部員達だ、黒崎明日菜の生徒会長は1年間のみで終了し、その後はバスケ部に復帰するものだと思っていた彼女達が黒崎明日菜に詰め寄ったのだ。
「明日菜お姉様、会長継続ってどう言う事です、もうバスケはやらないんですか!!」
「明日菜、まだ怪我直っていないって事なの?」
「あ~、もう、わかった、わかった。完治にはあと半年は掛かるってお医者さんの言葉よ、3年最後のインターハイには間に合いそうもないの、納得いかないなら証明してみせるわよ」
そこで左手がまだ完治していない証明として、明日菜が部員達に提示したのがセンターサークルからの3Pシュート1本勝負。
「自分のシュートが外れるようならきっぱり諦めろ」と、勝負にしてはあまりに一方的な提案だったが、明日菜がわざと外すようなことは絶対にないと言う信頼からか、その勝負は部員達に受け入れられた。
昼休みの第一体育館に、長峰美姫を始め女子バスケットボール部員総勢20名が集まり、センターサークルの真ん中に凛と立つ黒崎明日菜を息を殺して見つめる。
コート中央のセンターサークルに立つ黒崎明日菜は、ボールの感触を懐かしむように笑みをこぼしながら、タンタンと小気味良いドリブルを右手で繰り返す。ドリブルの途中で右手にボールが吸い付くようにして止まり、その女子離れした握力に部員が一瞬ザワめくが、彼女がボールを高々と構えるとシーンと静まり返る、左手は軽く添えられるだけ、美姫のゴクリとつばを飲む音が大きく聞こえる程の静寂。
173cmと長身の彼女が構える姿は、まるで一枚の絵画のように綺麗だ。
僅かな溜めの後、全身のバネを使ってシュートを放つ。
天井に届きそうな高い放物線を描いてボールが一直線にゴールに向かう、そのまま入るかと思われたがボールはリングにガンと弾かれ、無情にもゴールに入る事は無かった。
「ああぁ~~~~っ」
途端に部員達の悲鳴のようなため息が上がる。
明日菜はテンテンと自分の所に戻ってきたボールを右手で掴み上げると、見つめていた部員達に振り向く。
「ふむ、全然ダメね精度が上がんないわ。高校でのバスケットボールはきっぱり諦めます!」
「そんなぁ~明日菜お姉様! センターサークルから一発で入るわけないじゃないですか! 14mですよ、フリースローラインじゃないんですよ!」
1年の長峰美姫が必死に食い下がるが、2年や3年の部員達はなぜか黙ったままだ。
「美姫。怪我する前の私ならこんな何の邪魔もされないシュート100%決めてるわよ。狙って外すなんてありえない、そうでしょ皆んな」
2・3年の部員達が沈黙することでその言葉を肯定する。
明日菜の現役の頃を知る彼女達にとってみれば、絶対に入ることを確信していたのだから。
「じゃあ、後はお願いね。皆んなの活躍を信じてるわ」
そのまま体育館を去って行く黒崎明日菜に部員達の拍手と嗚咽が起こる。
明日菜は背を向けたまま右手を掲げてそれに応えるが、振り向くことはしなかった。
「終わった?」
体育館の入口に控えていた、副会長 赤城春が明日菜に声を掛ける。
「ええ、これでもう高校バスケに未練は無いわ。これで生徒会に全力で行ける!」
「そう」
スタスタと堂々と歩く黒崎生徒会長を、赤城副会長が追いかけるように校舎に消えていった。
第一体育館2階席。この勝負を見守る生徒が二人、観客席に立っていた。
「ねえ桐生さん。あれは、わざと外したの?」
「いえ、本気で入れに行ってました、後2cm手前だったら確実に入ってましたわ。多分その2cmの誤差が自分で許せないんですわ」
「ふ~ん。まぁ、明日菜さんはそういう手加減出来る程、器用じゃないもんね」
「でもこうなったら、まゆも生徒会に入ろうかな? 広報とか空いてるよね」
「えっ! 本気ですの」
「さあ~~」
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