第35話 江戸川の乱

放課後、黒崎会長と総会の資料を持って美術準備室に向かう。今日はなんかたむろしている生徒が多いな、黒崎会長が殺気を放って睨みをきかせると、それだけで蜘蛛の子を散らすように去って行く。

どんどん人間離れしていくなぁ、黒崎会長。

でも、今逃げ去って行ったあの子達って確か……。


コンコン カチャ


「青桐先生。総会の資料持ってきました」


部屋に入った私達を出迎えたのは意外な人物だった。


「あら、春も明日菜さんも遅かったわね」


「げっ、江戸川!」


「いい加減、まゆって呼びなさいよ、この脳筋娘!」ガルルル



あら、まゆちゃん。

美術準備室に行くとまゆちゃんがソファーに座っていつもの抹茶ラテを飲んでいた。いつから居たんだろう、さっきからいや~な予感はするのよね。しかし、まゆちゃんって黒崎会長と対等に言い合える貴重な存在だよね、他の人じゃこうはいかないもんね。



「そんな所で突っ立ってないで、早く座りなさいよ。今日は明日菜さんにとって良い話しを持ってきてあげたんだから」


「なにを偉そうに、それより青桐先生の隣から離れなさいよ!」ガルルル


「きゃー、鉄先生、明日菜さんがこわーい」ヒシッ


ブチッ


「青桐先生どいて。そいつ殺せない」




「はは、本当に黒崎さんと江戸川さんは本当に仲が良いですね」


今の会話を聞いて仲が良いで済まそうとするとは、ある意味凄いなこの鈍感鬼畜眼鏡。

しかしこのままでは話しが進まない、黒崎会長、どう、どう、落ち着け。

まったく、まゆちゃんは黒崎会長を煽るの上手くて困る。




テーブルに各々の飲み物が置かれ、ようやく私達がソファーに腰を下ろすと、まゆちゃんのプレゼンが始まった。


「「温泉旅行?」」


「そうよ、戸倉上山田で叔父さんが旅館やってるんだけど、たまには遊びに来なさいって招待してくれたの。まぁ、お父さんの旅館でも良かったんだけど、市外に出た方が気分がでるじゃない」


「で、それで生徒会となんの関係が?」


「えっ、だって鉄先生だけ誘ったらあんた絶対に怒るでしょ」


「当たり前じゃない!」


「じゃあ、いいでしょ。今回は明日菜さん含めて生徒会役員全員招待してあげるから」


そう言いながらまゆちゃんは、青桐先生に聞こえないように黒崎会長に耳打ちしてきた。


「明日菜さん、よく考えてごらんなさい。生徒会顧問だけでクラス担任も持たない鉄先生は、修学旅行にも当然来ないわ。だから学校行事で鉄先生と旅行出来るチャンスは無いわけ。そして湯煙り漂う温泉街での浴衣姿の鉄先生、湯上りではだけた胸元、逞しい上腕二頭筋、学院とは違う魅力満載よ。どう、見てみたくない」


「江戸川、貴女は天才か!」


まゆちゃんの手を取り、誉めたたえる黒崎会長。本当は相性いいんじゃないかこの二人?

そんな天才は嫌だなぁと思うも温泉に罪はない、温泉は全ての人々を平等に温め、癒してくれるとても良いものだ。

戸倉上山田なら隣の市だから気軽に行けるし、先生が一緒なら家族のOKも出やすいだろう、生徒会の慰安旅行だと思えばいいか。

トントン拍子に話しが進んで行く。




「では週末は戸倉上山田温泉に行くと言う事でいいですか。車は僕が全員で乗れる大きいのを知り合いに借りてきますね」


「はい! 青桐先生。おやつは幾らまでですか! バナナはおやつに入りますか!」


「明日菜さん、バナナは止めときなさいよ。なんか縁起が悪いわ、前の会長はバナナの皮で転けて亡くなってるのよ」


黒崎会長の言葉にまゆちゃんがつっこむ、本当に良いコンビだな。

いや、まだ生きてるけどな、勝手に殺すなよ。

遠足気分になった黒崎会長がテンション上がりまくりだ、子供かよ。あ~、冬君も連れてっちゃ駄目かな?




「それにしてもすみませんね。江戸川さんの歓迎会なのに旅館まで用意していただいて」


「ああ、全然気にしないでいいよ、親戚の所だから無料タダだし」


「へっ?」


「歓迎会? 誰の?」


「私の」


頭に疑問符を浮かべる黒崎会長と私に、まゆちゃんがさも当然と言った風に言い放った。


「そういえばまだ言ってなかったわね、まゆは生徒会に入る事にしたから。役は広報でいいわよ」


「「ええ~~~~~~っ!!!」」


「あれ、まだ黒崎会長に言ってなかったんですか?」


「「聞いてないよぉ~~~!!」」




黒崎会長が慌てて先生に詰め寄る、まぁその気持ちは良くわかる。


「ど、ど、どう言う事ですか! 青桐先生!」


「えっ? 江戸川さんが茶道部を辞めたんで生徒会に入るって。えっ、なんか不味かったですか、江戸川さんが生徒会に入ってくれれば、黒崎会長も楽になるかなって思ったんですが。仲も良いみたいですし」


「ちょっと、江戸川。茶道部辞めたって、貴女部長じゃない!」


「部長なんて1年もやれば十分でしょう。茶道部なんて甲子園があるわけじゃないし、この日のために1年間かけて後進の大村を育ててきたんだから文句は言わせないわ」


なっ、まゆちゃんが生徒会入りって、どうしてそうなった。そりゃあ仕事は楽になる?かもしれないけれど学院のパワーバランスがぁ~。嫌な予感的中だよ、それでさっき茶道部の大村さん達がこの部屋の前に居たのか。



うわぁー、どうなっちゃうんだコレ!

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