第32話 松代総合病院
先日肘の手術を終えた黒崎明日菜は、術後の検査の為に病院を訪れていた、今日は朝からの冷え込みがきつくて肘がシクシクと痛む。ちょっと暗めの照明が灯るロビーの椅子に腰を下ろし、本日の検査結果を一人待つ。
「それにしてもお母さんには困ったものね、まさか私の手術痕を見てギャン泣きするとは。(痛かったのは私の方なんだが)いつまで経っても子供みたいな人だ。挙げ句の果てには、人工関節に人工靭帯までお母さんが作るなどと言い出すし、お母さんは私をサイボーグにでもしたいのか」
本気で心配してくれるのは凄く嬉しかったが、その所為で怪我をしてしまった自分に罪悪感を覚える。
「まぁ、一生治らないわけでは無いらしいし、気長に構えるしかないか」
ポーン
ふと顔を上げると、ロビーの奥にあるエレベーターの扉が開くと白衣を着たお医者さんが出てきた。
視線を向けてしまったので、とりあえず軽く会釈すると向こうも頭を下げてくる。
あら、結構カッコいい先生ね、ちょっとお父さんに似てるかも。
少しの間見つめていると、その先生は私の方にゆっくり歩いて来た。
ん、何か用かな?
「黒崎明日菜さん」
あれ、私の名前知ってるの? 何科のお医者さんだっけ、すぐに思い出せない。
「どうも、初めまして。九星学院の美術教師の青桐です」
???。へ、うちの学院の先生? お医者さんじゃなくて、なんで学院の先生が白衣着てこんな所にいるのよ?
「九星学院の先生なんですか?」
「ああ、1年生の黒崎さんが知らないのも無理ないですね、美術の授業は2年の後期からしか無いですから」
「はぁ、うちの学院に美術の授業なんてあったんですか?」
「はは、皆さんにそう言われますね」
へ~、知らなかった。まぁ、私は部活漬けの生活をしてたからな、知らない先生の一人や二人居ても可笑しくはないか。
「でも、良く私の事分かりましたね、今日は私服なのに」
「これでも教師ですから、学院の有名人くらい知ってますよ。今回の怪我は大変でしたね、大丈夫なんですか?」
私は答えの代わりに、ギブスで固められた左腕を軽く上げた。
「見ての通り、バスケットボールは暫く休業よ」
すると先生はちょっと考える仕草をした後、私にこう言い出した。
「でしたら、休業中に出来る簡単なお仕事が有るのですが、いかがです」ニコッ
「はい?」
私の隣に腰を下ろした先生が言うことには、うちの学院の生徒会長がこの病院に入院しているらしく、先生はそのお見舞いに来ていたのだと言う。
ああ、生徒総会とか全校集会で見た事ある、頭の良さそうな男の人だった印象がある。
でも、入院の理由がバナナの皮で滑って転んで、足を骨折ったって。
あまり頭良くない理由だが、現実に有るんだそんなギャグマンガみたいな事。
で、一ヶ月以上は入院する羽目になってしまって、その所為で次期生徒会長選挙が滞っているという話しだった。
「でも、それで私が生徒会長に?」
「ええ、黒崎さんのような方にこそ、生徒会長になって欲しいと思います」
優しげな微笑みでじっと見つめられる
「どうです。返事はすぐじゃなくてもいいので、考えてみてください」
そう言って先生は、席を立って玄関に向かって去っていった。
「う~ん、生徒会長ね~」
「お~~~い! 明日菜ちゃん。検査結果がでたって、お医者さんが呼んでるよ~」
ちょうど、お母さんが手を振りながら呼びに来た。
ああ、そういえばお母さんも医者でもないのに白衣だったわ、こっちは科学者だけど。
「「ありがとうございました」」
お母さんと二人で、担当医の先生に頭を下げて診察室を出る、隣に立つお母さんの顔色は冴えない。
検査の結果は、完全に完治するのに1年半はかかるとのことだった。
高校生ということも有り将来の事を考えると、ここはしっかりと治しておいたほうがいいだろうとの話しだ。
だけど1年半は長いなぁ、3年のインターハイには間に合わないことになる。
これは流石に、結構本気で落ち込むわ。
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