第31話 ダウナー黒崎明日菜

期末テストも無事に終わり、放課後の生徒会室で黒崎会長と、来年度の入試説明会の打ち合わせをしていた時だった。思いつめた表情の黒崎会長が、唐突に口を開いて言った。


「ねえ、春ちゃん、私って女の魅力ないのかな?」


「はあぁぁ?」


何言ってんだこの女は、喧嘩売ってるのか。あんたが魅力無いとか言われたら、私なんてどうすりゃいいんだ!!

その整ったお顔と、超長い美脚を少しでいいから分けてくれ!

でも珍しいな、いつも自信たっぷりの会長がこんなに弱気な発言をするなんて。


「だってここ最近、江戸川や美鈴さんにかなり出遅れている気がするのよ。美鈴さんなんて、ちょっと前に知り合ったくせに先生に急接近してるじゃない。江戸川の言う通り彼女は要注意人物だったわ。アウトコースから思いっきりまくられた気分よ、大穴もいいところだわ」


う~む、学年2位の成績を誇るくせにこういう恋愛事には頭悪いなぁ、これだから江戸川さんに「会長は恋愛ヘタレだから超安心」とか言われちゃうんだぞ。


「まぁ、桐生さんも綺麗な方ですからね、典型的なお嬢様なうえに健康的でスタイルも良いですし。当然、男子にも人気ありますよ」


「うぐっ、どうせどうせ、私は左手ぶっ壊れてて、胸もちょっとだけ小っちゃいですよ~だ」


片手だけで桐生さん率いるバレー部に圧勝しといて何言ってんだ、貧乳以外は会長に弱点なんて無いんじゃないか、もっと自信持ってアプローチして行けば、あんなおっさんなんぞ簡単に落ちそうなんだけどな。

私も人のことは言えないが、会長は本当に恋愛事が下手くそなんだから。


「それに最近、学院内で先生の知名度はね上がっちゃてるし、信じられないことに美鈴さんと付き合ってるなんて噂まで流れてるんだよ!!」


「いや、それは元を辿れば黒崎会長が原因を作ったんじゃないですか」


「うむむ~、それはそうなんだけど。文化祭では失敗したなぁ、私だけの先生だったのに、こう言うの寝取られって言うんだっけ」


それはちょっと使い方違うよ、大体まだ恋人にもなってないでしょうが。

確かに最近は美術室の周りをうろつく女生徒も増えたし、桐生さんは意外と行動力あるから、今までのペースじゃ安心してられないのも分かるけど、会長はここいらで一歩踏み出す勇気は必要だろうね。

ただ、相手があの鈍感鬼畜眼鏡だからなぁ、アプローチと言ってもなにをすれば効果があるのか、良く分かんないだよね。


「う~む。一般的な攻め方として、お弁当作ってあげるとかはどうです」


「鉄先生って料理凄く上手だからやだ。勝てる気がしない」


「めんどくさいなぁ、じゃあ、いっその事告白してしまえばいいじゃない」


「無理、無理、無理!! あの顔だけは美少女の江戸川ですら断られてるんだよ。そんな、振られる事になったら登校拒否して引き蘢る。それか尼さんになって失恋教の教祖になる!!」


そう言って会長は机に突っ伏した。

うわ~、今日の会長ウザいなぁ、完全にネガティブモードに入っちゃてるわね、まゆちゃんの超ポジティブ思考を見習えばいいのに、あれはあれで凄い才能だと思うしね。

テスト期間も有って、あまり先生に会えてないのが原因なのかな?



「しかし、黒崎会長はなんであの鬼畜……いや、青桐先生をそんなに好きになっちゃたんですか?」


まったく、アレのどこがいいんだ、男は年下の弟に限るだろうに、顔か、顔なのか。


ピクッ「えっ、聞きたい。聞きたいの! 先生との出会い。良いよ、語っちゃうよ!」


ガバッと起き上がって、目をキラキラさせて私を見てくる黒崎会長。


ヤバいミスった! 面倒くさいスイッチ入れちゃったかも、ちょっと逃げたくなってきた。







黒崎会長が紙コップにインスタントコーヒーを無造作に入れて、生徒会室の古びた電気ポットでコポコポとお湯を注いだ。


「うげっ、まっず。インスタントってこんな味だったけ!!」


まぁ、いつもの美味い珈琲製造機(青桐先生)と比べたらな、私もそのせいで他では珈琲飲めなくなったし、人間一度贅沢を覚えると戻れないものなんだな。

一口飲んだだけで紙コップをコンッと机に置くと会長が話しを始めた。


「春ちゃんも知ってると思うけど、私って1年の時バスケットボールやってたじゃない。自分で言うのもなんだけど、結構凄かったのよ。もう、高校レベルじゃ無双状態だったのね、だから将来はプロになってアメリカに渡って一旗揚げようかなって、本気で思ってたんだ」


確かに当時の黒崎会長は凄かった、100年に一人の天才として騒がれ(あれ、バスケって100年位の歴史しかないんじゃなかったっけ)アメリカからNBAのプロスカウトが何人も学院に来る程だった。

事実、日本の高校レベルでライバルと呼べる者は誰もおらず、まさに女子バスケットボール界の女帝だったのだ。


「でも、左肘を壊して一旦バスケから離れなきゃならなくなった。バスケ部の仲間や顧問の先生は、怪我を治してから復帰してくれればいい。って言ってくれてたんだけど、一年以上バスケから離れるとなると色々考えちゃってね。

あ、でも片手でも勝つ自信はあるんだよ。……でもそれはなんか違うかなって思っちゃって、それまでの生活が一変したのもあって毎日ボケーとしてたの」


うむ、片手でも勝てる事は、この前のバレーボールでも十分に証明している、多分右腕一本でも、インターハイ位は平気で優勝しそうなのが会長の怖い所だ、化物め。


「でね、肘の手術や検査なんかも有って松代の総合病院に通いだしたの。あそこの病院って、お母さんの職場も近いし、スポーツでの故障者の治療には定評があるからね」





「そこで青桐先生と初めて会ったんだ……」

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