第14話 あなたは誰2回目
「カプチーノ、3番さん、4番さん上がったよ」
「ハイッ! 次マキアート3つお願いします」
「了解、ちょっと待ってもらって!」
カンカンカンッとリズム良くホルダーに珈琲粉を詰めて、次々とエスプレッソマシンにセットして行く、次々に入る注文にも慌てる様子を見せることなく流れる様にこなしている。
温められたカップをまるで踊るように置いて行くと、茶褐色の液体をクシューと音をたてて落とし始めた、芳醇な香りを放つクレマが更にお客さんを呼び寄せて行列がさらに伸びて行く。
無駄の無い動作でラテアートまでこなすその姿は、誰が見ても超一流のバリスタだった。
一息ついた青桐が満足気に2-Bの生徒に声をかける。
「サンレモ ヴェローナRSか。こんなエスプレッソマシン良く借りれたね、高かったでしょう」
「それは李くんが手配してくれました。彼のお母さんが喜んで手配してくれたそうですよ」
「まぁ、温度管理もしやすいし、ボイラーの性能も悪くない。僕としては助かるんだけどね」
「はは、でも使いこなせる人が先生だけじゃ駄目ですね」
「でも、ウチの学校って美術の先生って居たんですね、初めて見ました!!」
「と言うか、本当に美術の先生なんですよね? 本職のバリスタとかじゃなく」
「はは、それはよく言われます」
「ねぇ、中庭のカフェ行ってみない。なんかイケメンの店員さんが居るんだって」
「えっ、私昨日行ったけど、コーヒーあんまり美味しくなかったし、そんな店員居なかったけど」
「今日限定で、本職の人呼んだみたいよ」
「マジッ。じゃあ行ってみようか!!」
・
・
「いらっしゃいませ、お嬢さま。ご注文はいかがしますか?」
「カプチーノとカフェラッテですね、かしこまりました。ラテアートの方は私のおまかせでよろしいですか?」ニコッ
「「は、はい。貴方に全ておまかせします…………」」ぽーーっ
次々とやってくる客を魅了していく青桐鉄、だがこの中の何人の娘が、この店員がこの学校の美術教師だと分かっているかは、さだかではない。
生徒会副会長の赤城春は、中庭の自分のクラスの屋台を見て思った、どうしてこうなった。
文化祭2日目、午前11時。
前日はいまいちパッとしなかった2-Bの屋台だったが、今日は一転して黒山の人だかりが出来ていた。
見廻りついでに自分のクラスの出し物を覗いてみれば、なぜか青桐先生がバリスタを勤めているではないか。
平和島くんが今朝交通事故に会い、急遽代役が来るとの事だったが、まさか青桐先生を引っ張って来るとは、どう考えても会長の仕業だな。
奥様や女子生徒の客が多いのは青桐先生のせいか。しかし、どうしてあんな見た目がちょっといいだけのおっさんに、ホイホイと呼び寄せられるのだ、女を惹きつける変なフェロモンでも出てるのか? 私の可愛い弟だったら引き寄せられるのも分かるんだが、私に言わせればあれは眼鏡を掛けた、ただの美味い珈琲製造機だぞ。
しかし、凄いな。あれだけの注文を捌きながら、接客までもこなすとは、あの人本業間違えてるんじゃないか?
本当に謎の多い人だ。
と・こ・ろ・で、
「まゆちゃ~ん、茶道部の野点はさぼってていいの?」
「クラスの危機に、まゆだけクラブ活動をするわけにはいかないじゃない!」
「して、その心は」
「鉄先生が、私のクラスに来てバリスタやってるのに、呑気に野点なんてやってられるか!!」
本当にブレないなこの子、いっそ清々しいわ。
「あぁ、鉄先生のバリスタ姿いいわぁ。凛々しいわぁ。そうだ!! 写真撮らなきゃ、ちょっと写真部呼んでくる」
「おいおい、手伝いに来たんじゃないのかよ」
後は、
「黒埼会長も桐生さんも、飲み終わったなら、とっと席を開けてください」
「「えぇ~~~~!!」」
まったく、今日はこの後反省会だな。
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