第12話 あなたは誰
青桐と明日菜が並んで学院を歩く、南棟を出ると初日と言うこともあって中庭の屋台街は凄く活気に溢れている。
生徒会長で有名人である明日菜の登場に気付いた者が一様に驚いた顔になった。
「おい。生徒会長と一緒にいるの誰だ? 教師か?」
「えっ、何。あのイケメンのお兄様」
「私、校内で見た事あるような気がする?」
「白衣着てるし、科学の先生じゃない?」
「でも、あの雰囲気って」
「黒崎会長すっげえ笑顔。かわいい……」
「「「「あっ、こっち来た」」」」
明日菜がクレープ屋らしき屋台に目をつけ、テントの中を覗く。
「がんばってる。1-Cはクレープ屋さんなのね」
「は、はいっ! 黒埼会長。是非、食べてって下しゃい、あぅ」
「ふふ、それじゃあ、チョコバナナを2つ頂こうかな」
後ろに立ってる先生から2枚チケット受け取り、売り子さんに渡すと、その生徒がもじもじしながら私に話しかけてくる。
「あ、あの会長。そちらの方は………?」
「も、もしかして彼氏さんですか………?」コショコショ
えっ、そう見えた。見えちゃった? お似合い? まぁ、なんてかわいい子達でしょう。そんな良い子ちゃん達の屋台は、う~んと宣伝しといてあげるね。
「ふふふ、内緒。後1年もすれば分かるわ。じゃ、がんばってね」
「「きゃーーーーーーーーーっ!!!」」
黄色い声を後にクレープを1つ先生に渡す、思わず顔がニマニマとしてしまう。
「何かあったんですか?」
「いやー、先生の知名度低すぎだなぁって。1年の子、誰も先生のこと知らないみたいですよ」
「僕、もう10年もここで教師やってるんですけどね。1年生は受け持ちの授業無いから仕方ありませんか」
「だって先生、職員室にも居ないし。2・3年生の生徒だって、臨時講師だと思ってる子多いですよ」
「まぁ、理事長には自由にやらせてもらってますから。お、黒崎会長あっちの屋台は?」
「どれどれ。あ~あれは2-Bの…………」
うひゃ~い、楽しい!! 文化祭最高! デカルチャーだわ。今なら神の存在を信じられるわね、イエスだろうとアッラーだろうとお賽銭あげて祈ってもいい。
先生と一緒にクレープを食べる。たこ焼きを食べる。ケバブを食べる。ん、食べてばっかだな。いや、射的やスーパーボールすくいだってやった、決して食べ物に執着しているわけじゃない。
学院をブラブラと、いやラブラブと歩き回る。手繋いだら駄目かなぁ? などと考えていたら油断した、やな奴に会ってしまった。
「あら、明日菜さん。鉄先生も文化祭の見廻りご苦労様です」
「ゲゲッ!! 江戸川」
ミスった! 浮かれてて、知らない内に茶道部の縄張りに入ってしまった。茶道部の野点会場じゃないここ。
今日の江戸川は、髪をアップにまとめて薄いオレンジの江戸小紋を着こなしてる。ぐぬぬ…その立ち姿は、どこぞの家元か梨園の奥様に見える、くやしいがとんでもない美少女だ。
はっ、やばい! 着物を着てる時の江戸川は、戦闘力が3倍だ先生を近づけるわけにはいかない。
「明日菜さん、生徒会顧問である鉄先生と御一緒に、学園祭の見廻りですか。いいご身分ですね」ギロリ
「い、いや。見廻りじゃなくてデー…」
「見廻りで・す・わ・ね!」
うぐっ、こいつヤクザの姐さんか、目力が怖い。ふん、見廻りじゃないもん、デートだもん。
「江戸小紋とてもお似合いですよ、江戸川さん。さすがは茶道部部長ですね」
「鉄先生にそう言ってもらえるのが、他の誰に言われるより一番嬉しいです」テレッ
江戸川が江戸小紋ってシャレかよ、嬉しそうな顔しやがって。
「先生は着物が綺麗って言ってんのよ」ボソ
「何かおっしゃいました、明日菜さん」ギロリ
慌ててそっぽを向いて口笛を吹くと、呆れたように江戸川が肩をすくめる、そして先生の方に向き直った。
「どうです、鉄先生。薄茶ですが召し上がっていきませんか」
「江戸川さんが、立ててくださるんですか」
「勿論です、鉄先生のため
江戸川がそう言うと、パチリと指を鳴らす。すると後ろに控えてた部員の子が、本当にお茶漬けを持って来た。
「どっから持ってきたのよ! お茶漬け」
「はは。江戸川さんは、冗談がお好きですね。黒崎会長、せっかくですからお茶いただいていきましょうか」
「あら、半分は本気です」
私はありったけの呪詛の念を江戸川に送った、むむむ~っ、こけてしまえ~。
江戸川が、凛とした姿勢で茶杓でスッスッと茶碗に抹茶を入れ、茶釜からお湯を注ぐ。流れるような美しい動作で
何こいつ、本当に江戸川か? 普段と違い過ぎだよ、凄いお上品なお嬢様にしか見えない。これが着物効果か、もしくは二重人格?
「どうぞ」
先生が江戸川の立てたお茶を、そっと口にする。あぁ~、抹茶を飲む姿も素敵。姿勢がいいから着物なんか着ても似合うんだろうなぁ。見てみたいな~。
「結構なお手前で。………また腕を上げましたね、見事なものです」
「ありがとうございます。鉄先生のお口に合って良かったです。うふふ」
そして、私の前には2つの茶碗が置かれてる。
一つは抹茶、一つはお茶漬け。クソッ、本当に半分本気だった。しかも私のお茶は、さっき後ろに控えてた部員の子が立てたものだ。
自棄になってお茶をズズッとすすり、お茶漬けを勢いよく搔き込む。
「こんにゃろ。しっかりと出汁もとってて、普通に美味いじゃない。こんな所で無駄に丁寧な仕事しないでよね!!」
おそまつさまでした。と部員の子が申し訳なさそうに苦笑いで頭を下げる。
私は今日、茶道が大嫌いになった。
※茶道は手前が色々あって良くわからないよね。
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