第7話 2年A組の戦慄

その日、2年A組の室内温度は他のクラスに比べて3度は低かったと言われている。まぁ、そろそろ暖房が恋しくなる季節ではあるが。

ピリピリとした緊張感が教室に充満していて、息苦しい程だった。


「なぁ、今日なんかえらく寒くないか。エアコン効いてねえんじゃね」

「馬鹿、そんな理由じゃねぇ。空気読めよ」

「女王さまと女帝が冷戦状態!」

「桐生さん(女王)と白井さん(会計)顔色悪くない? 汗もひどいし、なんか震えてない?」


ズゴゴゴゴ


教室の後席中央で机に肘をつき、擬音つきゲンドウポーズでギロリと左前を睨みつける黒崎明日菜会長 (女帝)、左前の席で一度も後ろを振りかえることが出来ずに、座して固まっている桐生美鈴 (女王)、右前席でプルプル子鹿のように震えている白井秋、昨日桐生美鈴に美術準備室を教えた事を怒っていると思っている。

この3名によって作られた、謎の三角地帯が発する緊張感が教室中を支配する。常に無い迫力の黒崎明日菜に対して、話し掛けられるような勇者はクラスにいるはずもなく。胃痛を訴える者が続出した、他のクラスメイトにとっては、いい迷惑な状況だった。



「なな、なんで私、黒崎会長に殺人鬼みたいな目で睨まれてますの! 怖くて後ろを向けないんですけど〜」

「う~っ。会長まじおこプンプン丸なんですけど。あ、……お腹痛くなってきた」



キンコーン、カランコローン♪


ガタッ。チャイムと同時に明日菜が立ち上がる。


「「ビクンッ」」


「美鈴さ〜ん。朝の件で説明して欲しいので、生徒会室まで来て頂ける」ニコリ


「あ、あの、私。これからバレー部に……。ひいっ。わ、分かりましたわ」


「秋ちゃんも、一緒に行こうね」


「会長。わたし、お腹痛いので今日は……」ギロリ

「い、行きます。お供いたします! させて頂きます!!」



「今日の女帝、迫力凄え。女王に圧勝じゃねえか」

「明日もこんな雰囲気だと、俺ストレスで死にそうなんですけど、桐生さん一体何やったんだ?」

「明日菜お姉様、かっこよすぎぃ!」






生徒会室と言う名の取り調べ室。


「ですから!! 今朝の事は登校時に私がバナナを踏んで転んでしまった所に、鉄先生が通り掛って……」


なっ、「てぇ~つせんせ~えぇですって!!!」私だってまだ名字でしか呼べてないのに、何普通に名前呼びしてんのよ桐生美鈴。

これだからコミュ力高い奴っていやなのよ、平気で距離感縮めてくるんだから。

おにょれ~、女王様って呼ばれてるのは、伊達じゃないわね。(貴女は女帝と呼ばれてるけどな)

それよりバナナの皮で転んでって何よ、貴女ギャグキャラじゃないでしょうが。黄色くてゴーグルはめた生物でも近くに歩いてたの?


「で、百歩譲って事実だとして、何でそれで一緒の車で同伴登校して、腕まで組んで歩く事になるのよ!!」バンバン


「そ、それは。鉄先生がその場で手当てしてくださって、そのまま車で送ってくれたんですわ」ポッ


「うわぁ、桐生さんチョロ。それダウトだよ」


「赤城副会長までなんですの。ち、違いますわ。それは少しは優しい方だなぁとか、手綺麗だなぁとか、お姫様抱っこで車に運んでもらった時はドキドキしてしまいましたけど」


ビキッ、バキッ!!


「あら? 机がもげました。ヤワな机ねぇ~。ねぇ、美鈴さん」


「く、黒崎会長。机の板ちぎってますわよ。どんな握力」


よりによってお姫様抱っこってなんなの。そんな羨ましい事、私だってまだされた事ないよ。して欲しいよ。

昨日会ったばかりの美鈴さんに、なんでそんなに先越されるのよ。

うがあぁ~~~~っ! この燃え上がる嫉妬の炎をどうしてくれようか!


ブツブツと独り言を始める明日菜、赤城春が白井秋にコソコソと耳打ちした。


「う~ん。これはやばいかなぁ。秋ちゃん、大至急で青桐先生呼んできて」

「ラ、ラジャー!!」


赤城副会長の指示に逃げるように生徒会室を飛び出して行く白井秋、それと入れ替わるように一人の女生徒が生徒会室の扉の前に現れる。



ガラガラーッ バン!!


「江戸川まゆ、今日もかわいく参上!!」キラッ


入ってくるなり横ピースでキメ顔をつくる謎の人物。ここに新たな火種が投入された。


「明日菜、文化祭の書類。私自ら持ってきてあげたよー! って何、この空気」


空気をあえて読まない江戸川が、その場をさらに混乱させる。


「何、何、桐生さんまでお揃いで何が有ったの? 教えなさいよ、春」


「うわっ! 最悪。なんで、このタイミングで江戸川さんまで来るのよ~」



九星学院の女帝 (生徒会長)と、2人の女王 (運動部、文化部)揃い踏みの瞬間だった。

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