五本 ― gohon ―

そこにあるから伸ばした手

いとも簡単につまめた翅は

震えもがくこともなく

じっとわたしを見つめている


諦めも怒りも見えない

無感情な複眼は

数多の未来を見た後か


指より細い小さき身体

受け入れたようにぼんやりと

そのまま生きて埋めたとしても

動かず最期を迎えるか


引導を 渡せというのなら

土くらいはと思うわたしの傲慢な

とっくに汚れた五本の指


話しかけずにはいられない

もう飛ぶ気はないのかい

二本の腕じゃ飛べないの

五本の指は器用でも


きみの気持ちは知らないが

きみの言葉も知らないが

泥にまみれたこの心

見上げる翅にならないかい


鳥のように雄大で

蝶のように絢爛けんらん

夢を語る翼はいらない


無言でまっすぐ一直線に


空へ


うるさいくらいの羽音を鳴らし


空へ きみは


空を魅せてよ








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