わすれもの
リュウ
第1話 わすれもの
「あれ、ハンコがない」
また、何処かに忘れてしまった。
「確かにここに入れた」と通勤鞄を探す。
しかし、そこにハンコは、無かった。
私は記憶を遡る。
最後に使ったのは、あの時、鍵を返す時に使った。
そして、ポケットに入れた。
そうだ、ポケットの中だ。作業着のポケットの中。
と言うことは、つまり、ハンコは会社にある。
明日、会社で確認しようと捜索思考を止めた。
この止めるってのが、僕にとって大事なこと。
止めないと、頭のどこかに残っていて、忘れていたスマホのアラームのように捜索に引き戻される。
そして、頭の中に大きく響き渡るようになるのだ。
その時にテレビの音とか、人に話しかけられると、もう、頭の中がいっぱいになる。
そして、僕の発する語尾が鋭利になり、人を傷つける。
自分でもわかっているんだ。
イライラしていることは。
そんなに強く言ってないつもりだけど、そうじゃないと相手の眉間に皺がよっている。
「ゴメン」僕は小さな声で呟く。
こうなってしまったのは、歳のせいだろうか?
最近、よく小物を忘れるし、同じところを何度も探してイライラしている。
これは、よくない。
誰も悪くない、私が悪いのはわかっている。
探すことを止める為に、私はあることを考えた。
物を無くしてしまった時、きっと、そこに居る神様みたいなものが、
「置いてけ」と言っているのだと考えて諦めることにしている。
何か、私に関する何かと引き換えに何かを置いていくと考えた。
怪我をするとか、何か悪いことが起こる代わりに、何かおいていくのだと。
そうすると、未練が綺麗に断ち切れて気持ちが良い。
物を無くした時に、そこに居る神様みたいなものに、「どうぞ、お納めください」と小声で言う。
そこからは、全て忘れる。
諦めることができるのだ。
そろそろ休もうかと、ベッドに潜り込んだ。
その時、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ、私はだれだっけ?」
思い出せない、忘れてしまったようだ。
私は、天井を見上げで「どうぞ、お納めください」と呟いた。
わすれもの リュウ @ryu_labo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます