第12話 2人の距離 2
背負ってあげようとしたら普通に断られ、特に何事も無く街の外――離れた森まで来た。
ていうか、あの……弱ってるんだよね?
結構な速さで歩いてきたし、なんで私の方が汗をかいてるの……?
「この森も不思議と懐かしく感じるな」
「そうだね。半年……あっという間だったなぁ」
エルちゃんが足を止めて呟いた。
そう、ここは私達が初めて出逢った場所。具体的にはもっと奥だけど。
「もうこの辺りでいいか。ちょっと離れててくれ」
言われた通りに私が離れると、すぐにエルちゃんが光に包まれる。
結局アレってどういう原理の魔法なんだろう……意味分かんない。
「わぁ……改めて見ると……綺麗」
そして現れた、白銀のドラゴン。
出逢った時とは全く違う意識で見れたからか、そんな感想が自然と漏れた。
ドラゴンと一口に言っても姿は様々。
大まかに種別されるのは……翼の有無と、二足か四足か。
エルちゃんは二足。まるで腕と一体になった様な、爪の付いた大きな翼を地面に付けて支えてる。
そして逞しい体と脚、太く長い尾。
お腹側は灰色っぽくて、目は変わらず綺麗な青。
そして鋭い爪と頭から後ろに流れる様な角は、くすんだ黄金の様で目立つ。
全長は大体10メートルくらい……もうちょっとかな?
他のドラゴンを見た事が無いけど、本だともっと大きかったような。
でも、とんでもない存在なんだって肌で感じられる。
いつもの緩い子供の姿を知っていても気圧される程だ。
「んぁああー……」
そんな威厳たっぷりなドラゴンが啼いた。
何その気の抜ける声……
「凄くスッキリした!」
そういう事らしい。
大きな体でどうにか伸びをする様に動いて満足気。
「それは良かった。でも――」
たったこれだけで解決した事は喜べる。
ただ……1つだけ良くない事が起きた。
「――服、どうすんの……?」
「あっ……」
私はちゃんと見てたよ。服も靴も全部弾け飛んだのを。
「一応服だけは作れるんだっけ? でもまたノーパン裸足で帰るの?」
「いや、あの……」
「せっかく用意してあげたのを細切れにするなんて……」
別にお金に困る様な生活でも無いし、団長から多少の支援はあった。
でもだからって無駄にして良い訳じゃない。
「ちょ、ちょっと気晴らしに飛んでくるっ」
「あ、コラッ! 待っ……」
一旦逃げるつもりだと察して、思わずエルちゃんの首に抱き着いた。
なんでそんな事をしちゃったのか……考える間も無く突風と共に飛び上がる。
「馬鹿馬鹿っ! なんでしがみ付くんだ!?」
「ひぇぇぇえええっ!? 落ちる落ちる落ちるぅぅう!?」
なんかもう、お互いに大慌て。
必死によじ登ってなんとか首の上に跨った。
「はぁぁあ……し、死ぬかと思った……」
跨るって言うか、全身でどうにか抱き着いてるだけ。
余計に動いて落ちない様に大人しくしてるしかない。
「何してるんだ、全く……どうせならこのまま一緒に飛ぶか」
「それは良いかもだけどっ、すっごく怖い!」
少しだけ落ち着くと何やら提案が。
空を飛ぶなんてまず経験出来ないし、丁度夕陽が綺麗でなんだか良い感じ。
でもとにかく怖い。楽しむ余裕があるのやら……
「頼むから私の上で漏らすなよ?」
「漏らすかっ!?」
多分。急降下とかされなければ大丈夫だと思う……
そのまま少しだけ、気ままに飛び続ける。
何処までも行けそうな感覚。
出来るだけ揺れない様に飛んでくれてるのか、なんだかんだ怖さはかなりマシになってた。
「空から見ると……世界って広いね」
夕陽に目を細めて呟く。
こんな景色を見られるなんて……
そしてなんとも言えない不思議な感情が胸の奥で渦巻いた。
私1人なんて、本当にちっぽけな存在なんだな。
「当然だ。人が住んでるのだってほんの一部さ」
「こんな世界を旅するんだ……ワクワクする」
だけど同時に、この広い世界を旅する事が楽しみで仕方なくなった。
今すぐにでも駆け出したいくらい。
「正直、こうして飛べば何処へだってあっという間に行ける……でもそれじゃ違うんだ。道無き道を歩き、沢山の物を見て経験してこそ――それが旅だ」
「そう……だね」
表情は見えない。見ても今の顔じゃ分かんないけど。
でも、色んな想いが籠った言葉だって分かった。
「ねぇ……エルちゃんは……どんな物を見てきたの?」
こんな状況だからかな……少しだけ、踏み込んでみたくなった。
ちぐはぐで誤魔化してばかりの、エルちゃんの過去を知りたかった。
「…………本当に色々だ。そうだな……今はまだ話す時じゃないと思ってたけど……でも、まぁ……いいか」
長い間があったけど、そうしてゆっくりと語り始めてくれた。
「簡単に言えば、私は人間だった」
「……え?」
それもいきなり衝撃的な事から。
人間だったって一体どういう……?
まさか――
「孤独に生きて、そして終わった。なのに気付けばこんな姿だ」
私が予想してた事と合わせてみれば……つまり、そういう事?
「異常な力を持った人間はこうして生まれ変わる、らしい。私を殺してくれやがった同類が教えてくれた」
「同類……え? 待って、じゃあ……私って……」
「まぁ……そうだろうな。確実とまでは言えないけど」
エルちゃんが彼なら、更に同類と呼ばれた私も?
そう考えて思わず口を挟んじゃったけど、否定はされなかった。
「私が誰かはともかく、生まれ変わるだなんて……1人の人間として生きるには余計な情報だ」
確かにとんでもない話だ。
そんなの、価値観が大きく変わってしまいそうだもの。
でもそっか……隠したかった訳じゃなくて、私が変に受け止めかねないから言えなかったんだ。
過去を語るにはまず説明しなきゃならないから……
「驚くどころじゃないけど……でも、話してくれてありがとう」
「いや、いつ話すべきか悩んでたから丁度良かったよ。騙し続けるみたいでちょっと嫌だったしな」
別に騙されてるとは感じないけどなぁ。
当たり前だけど、エルちゃんだって色んな事を考えてるんだよね。
いや、考えてくれてる……か。本当に有難いな。
「何度も言った事だけど、この話をした上で改めて伝えておく。――私はただ独り戦い続けただけの人生だったけど……お前はそうなるな」
いつか垣間見た彼女の苦しみと寂しさは、彼の過去だった。
だから同じ道を辿るなと私を導いてくれてるんだ。
そんなにも優しいのに……何が化け物だよ……馬鹿。
「人もドラゴンも、独りじゃ生きられない。孤独は心を壊してしまう……だから私はここに来たんだ」
孤独。一体どれ程の苦しみなのか……
幸いにも私はそれを知らない。
「いいか、お前はお前らしく生きろ。どんな道だとしても、私が隣に居てやるから――生きてくれ」
「うん……」
そしてなにより、そうはさせまいと隣に居ようとしてくれる。
それはきっと、凄く幸せな事なんだろうな。
「そしていつか死んで、生まれ変われた時は……同じ存在として、共に生きよう」
死んだ後の事を考えるのはまだちょっと難しい。
絶対にそうなるとも言えないなら尚更に。
なら、曖昧なまま軽く答えて良い事じゃない。
だからせめて、精一杯抱き締める力を強くした。
決して嫌なんかじゃないって気持ちだけは伝わってほしい。
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