第5話 とにかく便利な魔法

 どうやらアリーシャは朝から説教の続きを聞かされて、今帰ってきたらしい。ご苦労な事だ。

 そんな話をしながら、ひとまずは一緒に食事だ。


 周囲のマナだけで生きられる私に食事は必要無いけど、人の姿をしてる時は出来るだけ人らしく生きようと思う。

 というか単純に美味しい物は食べたいしな。



 そして食事を終えたら、もう一度団長と話をしに行こう。


 彼も彼なりに考えがあって私を保護したのは間違い無い。

 じゃなきゃあんなにあっさり話が進むものか。


 だからこそ明確な意思表示をしておくべきだろう。






「――という訳で、私達は1年後に旅立つけど……良いかな?」


「むぅ……まさかこうなるとは」


 昨日に続いて団長とお話中。

 なかなか渋い顔で受け入れてくれた。


「私を囲い込めなくて残念だったね」


「流石にバレてたか。上手くいかないもんだ」


 彼が私の保護を即決した理由は単純。

 今と言わず、将来的に戦力として置いておきたいからだ。

 いくら強くても子供だしな。


 だから私が気を許してそうなアリーシャの下で暮らさせて、街を離れ難くなるくらいに愛着を持たせようとしたんだろう。


 けど、まぁ……


「失敗だったな。旅に出たがってるアリーシャに私を任せるなんて」


「いや……本気で言ってたなんて思わなかった。ずっと先の曖昧な目標なのかと……」


「曖昧ではあるけど本気ですよ!?」


 どっちだよ。本気ならハッキリさせとけ。

 団長の選択ミスじゃなくて、そもそも認識がズレてたのか。


「それにしては旅に関する事を学んでない様子だったが……?」


「そ、それは……その……仕事だけで精一杯だったというか……ゆっくりやっていこうかなって」


「ならその辺りも私が叩き込もう」


 本当に曖昧だったんだな……思ったより道は険しそうだ。

 まぁいい、やってやろうじゃないか。


「お前は本当に子供なのか? いくら実力があろうと10歳でそんな……」


「気にするな」


 疑念を抱くのも仕方ないが、そこはもう突っ込みを許さない。

 悪いけど話は終わりだ。






 その後、早々に家まで戻ってきた。

 今日は休日にされたらしいけど、何か予定はあるんだろうか。


「よし、買い物行こうか!」


 リビングのソファに寝転がってまったりしていると、アリーシャがそう言ってこっちを見てきた。


「え、まだ他に買う物ある?」


「いや、ベッド……」


「なんだ、じゃあいいよ。もう占領しないし、このソファで寝るから」


 多分アリーシャは昨日ここで寝たんだろう。

 これからは逆になればいい。小さい私には充分な大きさだ。


「でも――」


「いいって。何処で寝たって私は問題無い」


「むぅ……じゃあこの後はどうする?」


 なにやら納得いかないみたいだけど、キッパリ言い切れば受け入れた。

 ていうか、そもそも狭い家だから置き場に困るだろう。


 しかし特に予定は無しか……


「んー……なら軽く勉強でもしよう」


「え、早速? もうちょっとゆっくりでも……」


 やる気があるんだか無いんだか。

 叩き込むと言ったからビビッてるのかもしれない。


「日々少しずつ、だよ」


 まぁいい。自分から旅に誘ったんだ、嫌とは言わせん。


 という訳でお勉強スタートだ。






「さて……知識と技術は当然として、旅には何が必要か分かるか?」


 体を起こして向き合う。

 合わせてアリーシャも椅子に座って姿勢を正した。


「えーと……野宿用の色んな道具とか……」


「はいダメー! そんな物要りませーん!」


「えぇ!?」


 手で×を作ってダメ出し。

 旅ってのは人数に依って考え方が違うからな。


「1人2人じゃ道具なんて多くは運べないだろ。殆どの事は魔法で片付けるんだ」


 人数が居なければ出来ない事ってのは多い。

 だけど魔法の使い方次第でカバー出来る事も多い。


「例えば地属性の魔法。岩で囲えば敵や風雨から守れる……勿論過信は出来ないけど」


 岩宿とでも言うか。横になれるだけの広さでもだいぶ快適になる。

 適性のある人はほぼ確実にそうしているだろう。


「形を整えて火を置けば調理も出来るぞ。あと風呂とかも作れる」


「なるほど……私、適性は火だけど地属性も少しは使えるよ」


「ほう、なら丁度良いな」


 魔法は火水風地雷氷と治癒の7属性だ。

 誰でも最低限は一通り使えて、適性のあるいずれか1つが伸びる。

 彼女の様に2つ目もそれなりに使える人は割と珍しい。


 なんとも幸先の良い事だ。

 私がやらなくても任せられるし、とにかく便利だからな。


 ちなみに私は雷を筆頭に風と水が使えて、他もなかなかの練度。

 そんな異常な力でもって、英雄と持て囃された訳だ。


「適性が火なら、周囲の温度調節も当たり前に出来る様になっておけ」


「それはもう出来るし! ちょっとは自信あるんだから」


「そういえば既にオーガ3体を倒せるんだったな……ん?」


 思った以上に扱いは上手いらしい。

 けどちょっと待て。


「お前……まさか森の中でそれだけの炎をぶっ放したのか?」


「あ……いや、えっとぉ……」


 目を逸らすな、コラ。下手したら大火事だぞ。

 私だって雷で延焼しない様に気を遣ったくらいだ。


「も、燃え広がらない様になんとか制御したら魔力が尽きちゃって……」


「良かった、分かってはいたのか。そこから教えなきゃならないかと焦ったぞ」


 魔法に依る副次的な現象まで制御するのはかなり難しい。

 自信があると言うだけあって、確かに中々の実力だ。


 戦闘における周囲の環境についてはハンターとして学んでもらおう。


「まぁそれはともかく、その辺りは実際に見た方が早いか。外でやろう」


「あ、うん」


 ひとまず見せて自分でやらせてみよう。

 家の裏とかなら構わないだろう。


「こういう事以外に、実戦経験もしっかり積めよ」


「それは勿論!」


 外へ出て歩きながらも会話。

 意気込んでるけど、どうなる事やら。


「頑張ってくれ。お前が居ない間、私はのんびりさせてもらうけどな」


「えー……なんか理不尽」


「逆に何をしろと言うんだ」


 アリーシャが仕事に行ってる間は暇になる。

 精々家事をするくらいか?


「それに……子供に紛れたりしてさ、普通に遊んでみたい」


 見た目がこれだから遊び回るのも良いかもしれない。

 生前はそんな事さえ出来なかったからな……


「……そっか」


 遠目に子供達を眺めながら過去を思い返していると、そんな優し気な声が聞こえた。

 本当に寂しがり屋だと思われてそうだ。


 まぁ、間違ってないんだけどさ。

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