第6話 <仕事をしない公務員 例1>

私の父方の曽祖父(ひいじいさん)は警察官でした。 その父親(曾曾祖父)が武士で、維新により自動的に警官になりましたが、その息子ということで、曽祖父も警官になったのです。

当時の警察官とは「浅草博徒一代」佐賀純一 新潮文庫に書かれているように、「ヤクザ以上に恐ろしい、極悪集団」で、街の嫌われ者でした。

俗に「オイこら警官」と呼ばれ、道行く人を呼び止めてはいじめていたのです。泉鏡花の短編「夜行巡査」( → 青空文庫)にも、警察官の非道ぶりが描かれています。


しかし、私の曽祖父はそんな「警察官の仕事を一切しない」警察官でした。

毎日、川へ行き、警官常備のサーベル(短い西洋刀)で魚を突いたり、山で木の実や果物を取ったりして、それを近所に人たちに分け与えていました。

そうです、当時の警察官の仕事である、民衆に「威張る」「殴る」「たかる(賄賂をもらう)」を一切せず、職場放棄をして山や川に行っていたのです。

ですから、当時(大正・昭和の初め)の警察官としては珍しく「大衆に人気のある警察官」だったのです。


父の話では、祖父は「弱い者いじめ」「警官という権威をかざして威張る」ことが大嫌いで「自分は成り行きで警官をやっているが、(子供や孫には)絶対に警察官になるな」と言っていたそうです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る