第3話 <公務員と民間人>
父とすぐ下の弟は公務員、その下の弟は銀行員と、みな堅い仕事でした。
1番目の弟は三鷹市の教育委員長を2期務め裁判官の娘と結婚し、いまに言う「上級国民」の仲間入りをしていました。都市銀行の大手町本店に勤務していた末弟は、同じく40歳台で家を建て、生涯で100台以上の車を乗り換えていました(自分で修理・改造するのが趣味)。
島送りにばかり遭っていた父は、そんな弟たちの平穏無事な生き方を見ていたのでしょうが、そんな父の信念は「東大を出て公務員になるのが一番」でした。
東大を出れば、30台で警察署長や税務署長になれる。単に頭がいいというばかりではなく「東大」というブランドで公私ともに幸福になれるという、まあ、ありきたりの人生論でした。
息子の私が東大なんて月にスッポンということは父もわかっていましたが、20歳で終戦を迎え、子供の時から戦中戦後の苦しい時代を生き抜いてきた父は、何よりも生活の安定を一番に考えていたのです。 また、私とちがい勉強好きでしたので、天下り先の会社でも、各種資格取得の勉強を毎日、頭の体操代わりにやり、税理士やボイラー、危険物等、片っ端から10幾つの資格を取っていました。
ところが、教育委員長の叔父が言うには「東大出」という肩書きは重荷ではないか、と。叔父は東大ではありませんでしたが、奥さんの父親が東大、東大出の警察署長との付き合いなどから「なぜ、彼らが苦しいのか」を実例で話してくれました(正月に兄弟3人が集まった時に)。
そして、この叔父さん自身は「上級国民」の生活に馴染めず「三鷹市の市長になれ」という「指示」を辞退し、定年前に退職・隠棲してしまいました。
叔父はまた、こんなようなことも言っていました。
「『パーキンソンの法則』の通り、公務員はどんどん増えて、やがて国の財政を食い潰すまでになる。戦争で国家が破綻するのではない。軍人・警察・役人という公務員が増えすぎて、にっちもさっちも行かなくなると、テーブルをひっくり返す(経済破綻・国家破産・戦争)のだ。
戦争だろうと疫病だろうと、とにかくその頃日本には金がなくなっているのだから、海外の金貸しに頼らざるを得ない。そして、日本人はよく働くから外国の銀行は喜んで、いくらでも金を貸す。
で、その金を真っ先に使えるのは(東大出の)公務員だ。その意味で(東大出の)公務員は永遠に金には困らない、というのは本当だ。」と。
(新聞に1998年でしたか「フランス革命の借金をフランス国民は漸く返し終わった。」という記事が、2000年?には、「明治維新から太平洋戦争まで、そして戦後復興の為の借金を日本は支払い終えた」という記事が出ていました。フランス人は200年かけて、日本人はわずか50年間で、膨大な借金を返済した、と私たち日本人は自慢すべきなのか?)
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