11.2

 歩いてきたほうのきじを見留めた魔王ウィリアム(のげんえい)は,


 倒れているほうのじくの,金糸の髪を右手でつかんだまま,平然と左手のひらで答礼をした。声がかかるまで、敵の接近に気が付かなかった事への動揺を顔に出す事なく,淡々と答える。

 「見れば分かるじゃない。この“呪い”めが,寛解かんかいしているのなら,再び発動させる為。

 呪い子の住む城の中で行うより,精神への傷が大きくなるかを試すのよ」

 話しながら左手を下ろした魔王だが,右手でつかんだ髪の毛を引っ張りつつあった。


 「ようでございますか。幻影を送り込んだ場所はともかく,魔王下の目的がという事に,驚きました」 


 ため息をついた青年に対し,魔王は眉をひそめながらも,正解だと認めて首を縦に 振り,揺さぶりをかけた。

「この呪い子を,貴官は常に見張っていたのか? そうでなければこのタイミングで, 介入できるとは思えない」

 「いえいえ,それがなんです。介入したのを含めて,です」

 青年は,答えを魔王ではなく,倒れたままびくぅッと肩を震わせた女の子へ告げた。

 彼の裏切りか何かを想像してしまったようなので,なだめる為だ。

 

 「貴官は言うなれば,ただ一人の為だけの勇者でしかない。―それゆえに厄介な存在だ。

 今回は術者が,移動の魔法を使う時に,座標の設定ミスをした―,その上,幻影を攻撃すれば使用者と,遠隔操作している術者,どちらにもダメージを与えられるを持っている貴官の出現,全て私に不利な要素だ。やむを得ない,これで失礼する」

と言い放つ。不快そうな表情と,それに反して,相変わらず淡々とした口調が,2人の雉軸へ抱く,暗い憎しみの象徴に感じられる。


 ―意外にも,魔王ウィリアムは2人の前から,あっさりと引き下がった。―


 金糸の髪が,地面に散る,幻影の右手から,解放されて。

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