第3話 またもや能力開示できなかった

星が綺麗な森の中、僕は両側に花を囲んで歩いていた。

そうです、女の子を二人ゲットしました。え? 前回のホモはって? おいおい、誰が今頃ハゲで不細工で死んだ魚の目をしてはないけど、とりあえずそんなのよりも女の子がいればいいだろ?


「そうだわね」


右にはツインテールの女騎士様。ちょっと気が強い感じだけど、ちょっと擽れば容易く女の顔をします。尻が――――ごほんごほん。


「こ、ここ、こわいです……」


左にはボロボロの服と裸足の少女、ケモ耳? じゃあ付けておこう。まちがえた、さっきのネズミの付けちまった。これは怒られる。

まぁいいか、あと奴隷でした。助けました。山賊がそこそこ強かったけど、女騎士様のおかげでなんとかなりました。


「いやぁ、助かりました。さっきは」

「そうだわね、そうだわ――――ありゃ?」

「だ、だれですか!」


やべえ、ネズミのかけた魔法って時間で解けるタイプだったのか。せっかくやらせたのに、ハゲヒゲ筋肉だるまに戻っちまった。

しかも鎧が砕け散って全裸だわ。キツイ。特にちょっとまだ女騎士モードが抜けてなくて赤らめてるのがキツイ。


「あっちに村がありますから、とりあえずそこに行きましょう」

「じゃあそうしよう」

「そうだわね」

「もう魔法は溶けてんだよ」


奴隷少女に先導してもらって森を進んでいった。

その間は狼や猿や雉が襲ってきたが、とりあえず脳筋がなんとかしてくれた。こいつ、一体何者なんだろ。


「む? 普通に元山賊だが?」

「だからムキムキなのか」

「いや、これは牢獄で筋トレしたからだ」

「着きましたよ!」


旗があって、テントがいくつかあって、鎧来ているのがそこらにいる。うん。奴隷ちゃん、ここは村じゃないね。国兵の野営地だね。

僕たちは脱獄者だから見つかったらまた捕まっちゃうね。でもね、その褒めて褒めてってキラキラした目で可愛らしくされると言いにくい――――いや、こういうときは言うべきか。


「奴隷ちゃん……」

「(キラキラキラ)」

「……よくやったね! 話しかけに行こう!」


ごめん、やっぱ無理。もう一回捕まろう。

主人公たるもの、幼気な少女の眼差しを否定するわけにはいかないし。


覚悟を決めて僕は野営地に突っ込もうとしたが――――なんか兵士たちが倒れてる。一体どうして? いやまさか、この感じは――――!?


「ふっふっふ、やっといたぜ!」

「脳筋……」

「ついでに鎧着とけ、嬢ちゃんもな」

「おじさん……」

「お兄ちゃんな」

「……お兄ちゃん」


なぜか少女に厳しいおっさんだった。

ともかく国兵の衣類や宝物、武器、もろもろの情報を略だ――――同意の上でもらい、俺たちは近くにあるらしい町に向かうことにした。


「てかさ、名前なんて言うんだよ?」

「そういやまだだったな、俺はゴルゴンゾーラ。ゴルさんでいいぞ」

「私は……」

「おい、緊張してんのかよ? サファイアだろ?」

「あ、そ、そうです、サファイアです」


ゴルさんって気が利く男だな。これは夏も深くなるわけだ。

ってなんか二人とも僕をじーっと睨んでいる。そうか、僕の名前もまだだったか。


「霧神慎――――いや、キリシンで」

「だせぇ!」

「じゃあシンジでいいや」


ということで好青年で元王子の僕はシンジ、山賊でハゲヒゲ筋肉はゴル、可愛らしい臆病な少女はサファイア。

これから僕たちの壮大な冒険が始ま――――あれ?


「坊ちゃま、こんなところでどうしたんですかね?」


なんでこんな真夜中の森に執事長のじいさんがいるんだ。しかもなんか山賊の格好だし、ゴルに〆られて木の枝にパンツから吊り下げられてるし。


「ありゃ、このじいさん知り合いだったのか?」

「そうじゃよ、さっさと卸せやゴリラ!」

「誰がゴリラだって!」


あ、じいさんがサンドバックにされてる。こんなの見てられない。

サファイアちゃんと綺麗なお花見てよ。

あー、サファイアちゃんが笑顔でお花くれた。可愛い。あ、花びらに血が飛んできた。


「ゴル、もうそのへんにしといてやってくれ」

「ああ? ああ、そうだな。でもいいのか? 髪が三本だけ残ってるが?」

「……いいよ」


涙目になってサファイアちゃんに慰められているこの執事長は、どうやら僕を逃がすために遥々森へ入ってきたらしい。なんて勇敢で誠実な老人だろうか。


「ぼっちゃま、馬車がございます。それで隣国に亡命しましょう」

「うむ。ではそうしよう」


そういうことで執事長の馬車で隣国まで揺られることになった。相変わらず酔いが凄い、だけどサファイアちゃんが介抱してくれるから解放しなくてもなんとかなった。


「お~い!」


サファイアちゃんは優しいな。こんなに可愛い子が奴隷にされるだなんて、まったくそんなけしからんことをしたのはどこの国だ!

え? ヨキン帝国だって? おやおや、おやおや……。


「お~い!」


やっぱり王族ってクソだな。サファイアちゃんも僕も、何か悪いことをしたのか。いや、してないよな。なんだってこんな目に合うんだか。これじゃあわざわざ転生した意味が――――、


「お~い!」

「さっきからうるさいぞ! 黙って走ってこい!」

「なんで俺だけ走りなんだ!」


とりあえず亡命したらさっさとチート能力を開花させてあのクソ帝国を転覆してやる。

うんうん、あんな国無くなった方が世のためだ。あ、馬車が止まったようだ。これでようやっとトイレに行ける。そうだよな、国家転覆の前にまずはこの酔いを――――ん?


なんか、あの、なんで? なんで兵士たちが僕に槍を向けてらっしゃる?

それに執事長、なんでそんな悪い顔を。三本しか毛が無いのに。


「坊ちゃま、ご苦労じゃったな」

「これってどういうこ――――」


口に布が、こ、これは睡眠薬。え、なんで睡眠薬? 別に寝かさなくてもよくない?


「一度眠らせてみたかったんだよ。ちな、期限切れ」


隣国兵士この野郎。せめて消費期限は守れよ。そういうとこだぞ。


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