第39話551は556とは違うのですわ!

私の働く西園寺家のお屋敷は誰から見ても立派な洋館だ、居間には薪が燃えてる暖炉があるし、キラキラ輝くシャンデリアだってある。だからこのお屋敷に不釣り合いな香りは廊下を歩いていてもすぐにわかった。


ガチャリ


ドアを開けて確信する。


「ほら、やっぱり」






ドアを開けたまま立ち尽くす私に原因であるエリカお嬢様が口を開く。


「あら、戸田も豚まん食べます?」


エリカお嬢様が自分の前に有った赤い箱を私に向けて差し出して来た、あ、湯気が上がって……。


「やっぱり~この香り、551じゃないですか、頂きますよ」


普通の大阪人はこの551の香りには抗えないのだ、ちょっと小言を言いそうになるが素直に手を伸ばした。


「梅田に出る用事があったので買ってきたんですわ、からし付けます?」


付属されてたであろうからしを二つ手渡される。あ、私ソースはつけない派です、お嬢様はからし+ソース派ですか、ソースをつけても美味しいのは分かるんですが、あえてからしだけで。


「いいですね、からしと豚まんの相性って良いですよね、東京では豚まんに何もつけないで食べるらしいですよ、信じられませんね」


アムッ


「う〜ん、やっぱ豚まん美味しいですね」


やっぱ、551食べるとテンション上がるわぁ。

エリカお嬢様は早々と一つ平らげると、赤箱に手を伸ばす、何個買って来てるんですか。


「チャーシュー豚まんも食べます?美味しいですわよ」


「いやいや、夕飯食べられなくなりますよ」


「まだ3時ですわよ、3つや4つ食べても大丈夫ですわ」


いや、そりゃお嬢様だけですって。


アムッ


「最近ではセブンやファミマの肉まんも美味しくなりましたが、やはり551蓬莱ほうらいには勝てませんわね」


「まぁ、お値段もちょっと高いですからね」


「あら?でもこの前セブンで買ったら200円くらいしましたわよ」


「あれ?そんなにしましたっけ?」


「もっちりジューシー豚まんですわ」


「それ普通より高い奴ですよ絶対、あれ?普通のっていくらでしたっけ?」


(肉まんのお値段・セブン161円、ファミマ168円、ローソン170円:2024年10月調べ)ちょっと前まで120円くらいだったような…。







旦那様が台湾で買ってきた青茶の東方美人を景徳鎮の小さな茶碗に注ぐと、紅茶を思わせる赤色と香りが鼻をくすぐる、うん、やっぱり豚まんには中国茶が合うよね。しかもこれ凄く良い茶葉だって旦那様言ってたし。

勝手に飲んじゃったけどお嬢様と一緒だから大丈夫よね……。


「戸田、知ってます。烏龍茶を日本で有名にしたのってピンクレディーのお二人ですのよ」


「へぇ〜」


お嬢様が茶碗に口をつけながら語り始める。ピンクレディーって誰だっけ、昔の人だよね、聞いたことはあるんだけどちょっと顔が浮かんでこない、お嬢様って時々年代を超えて知識持ってるからなぁ。


二人で豚まんを食べながらTVのリモコンを弄る、日曜なので競馬の中継が流れていた。

何を思ったのかお嬢様がじっと画面を見つめている。乗馬じゃなく競馬にも興味あったっけ?思わず首を傾げた。


「7番のお馬さんですわね」


エリカお嬢様が画面を見ながら呟く。


「へ?7番ですか?」


ゲートが開いてお馬さんが一斉に走り出す。


結果7番の馬が勝った、武豊流石だなぁ。お嬢様がついでに言っていた4番と9番も2着、3着に入ったからこれマグレじゃないんだろうな?

エリカお嬢様の強運ってギャンブラーでも十分に財を築きそう。




「あ、お母様の車が帰ってきましたわ!戸田、窓を開けて換気ですわ!」


「うわっ、寒っ!あ〜、だからご自分の部屋で食べればいいのに〜」


お嬢様と一緒にパタパタと部屋の中を動き回る、自分の部屋から金のファブリーズ持ってこよう!

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